”バカ”、では死なない~『多動力』堀江 貴文氏
すべての産業が「水平分業型モデル」となり、結果〝タテの壁〟が溶けていく。
この、かつてない時代に求められるのは、各業界を軽やかに越えていく「越境者」だ。そして、「越境者」に最も必要な能力が、次から次に自分が好きなことをハシゴしまくる「多動力」なのだ
失敗した計画も多い
僕はこれまで、空気なんて読まず、クラスの中で真っ先に「はい!」「はい!」と手を挙げるような人生を歩んできた。・・・ニッポン放送とフジテレビを買収し、メディア革命を起こそうと計画した。大阪近鉄バッファローズを買収し、プロ野球をおもしろくしようと考えた。自民党から衆議院候補として出馬し、自民党総裁になってやろうと夢想した。失敗した計画も多いが、成功したプロジェクトのほうが数多い。(194ページ)
リーダーはバカでいい
手を挙げることを恐れることは何もないのだ。リーダー役はバカであっても構わない。リーダーなんて、とにかくやる気と勢いがあれば大丈夫だ。
一人のバカと、多数の小利口という法則がある。プロジェクトを成功させたい強い気持ちをもつ人間がトップにいれば、技術をもった小利口、事務作業が得意な小利口が自然と集まってくる。・・・AIやロボットが人間の仕事を代替するようになったときこそ、「一番最初に手を挙げるバカ」の存在は輝きを増す。アルゴリズムや常識からかけ離れたクレイジーな発想から、爆発的におもしろい仕事が始まる。(196ページ)
多動力
堀江氏はTV局の買収、選挙出馬、様々の失敗を憶することなく書いている。人によっては二度と触れて貰いたくない、失敗の歴史である。こうやって文章にしているのを見ると、そもそも失敗とは何だろう、と考えさせられる。
最初に手を挙げれば、自分のやりたい様にできる。全員がバカである必要はない。しかし、バカが居なければ基本的欲求の満たされた世界を変えることはできない。これから私はどれだけバカになれるだろうか?
蛇足
バカ、では死なない
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”非自発的雇用”とは奴隷状態のこと~『 ケインズはこう言った 迷走日本を古典で斬る』高橋 伸彰氏(2012)
ケインズはこう言った 迷走日本を古典で斬る (NHK出版新書)
高橋氏は経済政策の研究者、ケインズなら、日本経済にどのような処方箋を書くか?(2012)
非自発的雇用
・・・年間2000時間働いても年収200万円にも満たない時給1000円未満のワーキングプアや、無給のサービス残業あるいは週40時間の法定労働時間をはるかに超える長時間労働を強いられても拒否できない正社員などが直面している過酷な雇用状態のことである。(32ページ)
非自発的雇用は経済成長では解決できない
・・・経済全体の需要を増やし、生産量を増やせば雇用量も増える。そして雇用量が増え、所得が増えて、消費が増えれば、物価の下落に歯止めがかかり、税収も増える。その機動力となる需要の創出を、国債の累増やゼロ金利で発動が制約されている財政政策や金融政策に依存せず、シュンペーターがその主著『経済発展の理論』で唱えたイノベーションで実現できるなら、日本経済は“失われた20年”というトンネルから早晩抜け出せることができる・・・非自発的雇用の根因は総需要の不足よりも、労働力を買い叩き、雇用者を搾り取ることで利潤を確保しようとする資本の論理(増殖運動)にあるからだ。(40ページ)
なぜ非自発的雇用が生じたのか?
労働の苦痛に見合う最低限の賃金を下回っても、なお働かざるを得ないことに非自発的雇用の本質があるとすれば・・・・生きていくために働くか、犯罪に手を染めるか、それとも自らの命を絶つかといったぎりぎりの選択を迫られる雇用者は・・・実質的な“奴隷”と言っても過言ではない。・・・1円でも多い利潤の確保がホンネなのに、グローバルな競争における生き残りが大変だとタテマエを盾にして、可能なかぎり人件費を削減しようとする企業とその利害関係者に支持された“民主的政府”による自由放任(労働規制の緩和)政策から生まれたのである。(41ページ)
労働時間の短縮
成長の可能性に雇用の安定と暮らしの安心を求めるのか、それとも成長に固執せず働く機会の確保と暮らしの安心を求めるのか。・・・私は非自発的雇用の解決には労働時間の大幅な短縮が必要だと考えている。・・・・週20時間、1日5時間に短縮するように労働基準法を改めるべきだと考えている。(202ページ)
ケインズは100年後を予測した
重大な戦争と顕著な人口の増加がないもの仮定すれば、経済問題は100年以内に解決されるか、あるいは少なくとも解決のめどがたつであろう。これは、経済問題が人類の恒久的な問題ではないことを意味する。(21ページ)
ケインズはこう言った~迷走日本を古典で斬る
非自発的雇用とは高橋氏の造語である。それは資本主義にビルトインされたシステムだから、である。一方で“奴隷”状態を許容する労働者は成熟途上の社会に適合した教育制度・社会制度によって生み出されたと考えるべきであろう。
非自発的雇用はシュンペーターのいうイノベーションによっては取り除けない。高橋氏はワークシェアリングを提案するが、その本質はベーシックインカムであろう。ケインズが予見した様に、我々は経済問題を解決している。ベーシックインカムが導入されれば、誇りを失わず非自発的雇用を拒否できる。それよりも大切なことは我々は経済問題を解決している、非自発的雇用を拒否したとしても、制度としてのベーシックインカムがあろうがなかろうが生きていける、と信じることであろう。“奴隷”状態は拒否できる。
蛇足
私のやっていることは非自発的雇用ではないか?
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地球を動かす新しいビー玉を考えよう~『医薬品クライシス―78兆円市場の激震』佐藤健太郎氏(2010)
佐藤氏は医薬品メーカーで創薬研究に従事、現在はサイエンスライター。巨額の投資とトップレベルの頭脳による熾烈な開発競争をもってしても、なぜ新薬は生まれなくなったのか?(2010)
創薬は人類最難の事業
製薬業界は、どれくらいの新製品を世に送り出しているか―。驚くなかれ、年間たったの15から20製品にすぎない。・・・これは1社の製品数ではなく、全世界数百社の製品を合わせた数字だ。世界中の巨大メーカーがよってたかって資本を投下し、分子生物学・有機合成化学など各ジャンルの最先端の知識を結集して、わずか15種程度なのだ。・・・今や医薬を創り出すのは、人類のあらゆる事業のうち最も困難なこのの一つだという人さえいる。(16ページ)
医薬とはビー玉で地球を動かすこと
医薬の正体は、突き詰めれば原子数十個から成る小さな分子だ。・・・もし医薬品を1㎝の大きさに拡大したとしたら、人間の体は地球よりも大きくなってすまう計算になる。いわば医薬を創るということは、ビー玉で地球を操ろうとう試みに近い。(17ページ)
1990年以降創薬はピークアウトしている
1998年、アメリカ食品医薬局(FDA)は1年間で53品目の新薬を承認したが、2000年以降年間30品目を超えたことは一度もなく、2007年には18品目にまで落ち込んだ。この間、製薬業界全体の研究開発費総額はほぼ倍に伸びているから、単純計算で生産性は1/6に低下してしまったことになる。現在、世界の製薬企業は膨大な利益を稼ぎ出している。が、その利益をもたらしている大型医薬のほとんどは90年代に開発されたもので、その後継品は生まれていない(139ページ)
日本は創薬基盤を持つ国の一つ
現在、医薬を自前で新しく創り出せる能力のある国は、日米英仏独の他、スイス・デンマーク・ベルギーなど、世界でも十か国に満たない。広い範囲の、ハイレベルな学問を修めた人材が数多くいないと、製薬産業は成立いないものだからだ。・・・医薬を創り出せる能力は、研究者の層の厚さを示す重要な指標だ。日本が新薬を創り出せる数少ない国家の一つであり、世界の人々の健康に大いに貢献していることは、我が国がもっと世界に誇ってよいことではないかと思う。(48ページ)
医薬品クライシス~78兆円市場の激震
医薬は天然の物質から医薬を探してくる手法から始まった。天然由来を一通り試し終えた後は化学の手法によってフラスコ内で新しい化合物を作り、徐々に改良していく「合成法」が勃興した。そして現在はバイオテクノロジーを活用して新たなタンパク質を作り出す方向に向かっている。医薬を産業として見た場合合成法によって作られた医薬が中心であるが、その後の新薬の創出スピードはスローダウンしている。
最大の理由は合成法で創れる薬はすでに登場、残ったのは癌やアルツハイマー病など難度の高い疾病ばかりになったことである。
他の産業が流行や改善によって新製品が生み出されるのに対し、医薬においては新しい疾病に効かない新製品は必要ない。医薬品の新薬創出スピードの低下は他産業においても同様に発生していると考えるべきである。
日本は相対的に大きな市場と知的基盤である。これは他産業においても当てはまる。我々は新しいことをできる立場にいるのである。医薬が難病への薬の開発という困難に立ち向かっているのと同様、我々もそれぞれの分野で難問に取り組むことが求められている。たとえ短期的に結果が出なくてもいつかは次世代のブレークスルーを実現する。我々はそれぞれの産業で、新しいビー玉を創り出すことを考える必要がある。
蛇足
不老長寿が人類最難関のテーマ
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神話が伝えること、危機に直面することが生きること~『神話の力』J・キャンベル×B・モイヤー(2010)
神話はなんのために生まれ、私たちに何を語ろうというのか?(原書は1988、文庫は2010)
シャーマン・イグジュガルジュク
彼はカナダ北部のカリブー・エスキモーのシャーマンでね。ヨーロッパからの訪問者に対してこう言ったものだ―『唯一の正しい知恵は人類から遠く離れたところ、はるか遠くのおおなる孤独のなかに住んでおり、人は苦しみを通じてのみそこに到達することができる。貧困と苦しみだけが、他者には隠されているすべてのものを開いて、人の心に見せてくれるのだ』(22ページ)
シャーマンは、男であれ女であれ、少年期の終わりか青年期の初めに圧倒的な心理体験をしており、そのおかげで完全に内面に向いている人です。一種の精神分裂的な衝撃です。無意識のすべてがパックリと口を開き、シャーマンはそこに落ち込む。(195ページ)
人生の目的とは
人間がほんとうに求めているのは<いま生きているという経験>だと私は思います。純粋に物理的な次元における生命経験が自己の最も内面的な存在ないし実体に共鳴をもたらすことによって、生きる無上の喜びを実感する。それを求めているのです。(43ページ)
イグジュガルジュクの世界観~探検家の日々本本より
若い頃にシャーマンの素質を見出された彼は、部族の仲間から強制的に冬の荒野に放り出され、30日間にわたる過酷な断食修行を強いられた。その後も断続的に修行を課せられ、自然の奥に宿る生と死の秘密、この世の中を動かしている絶対的な原理を射貫く透徹したものの見方、すなわち唯一の正しい知恵を獲得することになった。(120ページ角幡唯介氏)
英雄は旅にでる
英雄とは、自分自身より大きな何物かに自分の命を捧げた人間です。(265ページ)
神話は、もしかすると自分が完全な人間になれるかもしれない、という可能性を人に気付かせてくれるんです。(314ページ)
神話は、何があなたを幸福にするかは語ってくれません。しかし、あなたが自分の幸福を追求したときにどんなことが起こるか、どんな障害にぶつかるか、は語ります。(330ページ)
苦しまないでも生きていける、と言っている神話には、一度も出会ったことがありませんね。神話は私たちに、苦しみとどう立ち向かい、どう耐えるか、また苦しみをどのようの考えるかと語ります。(341ページ)
大きな問題は、あなたが自分の冒険に心からイエスと言えるかどうかです。・・・英雄の冒険に。ほんとうの意味で生きる、という冒険に。(349ページ)
神話の力
自分が本当にしたいことに携わったとき、人は様々な困難に直面する。そして困難に直面することこそ、“今生きているという経験”なのである。シャーマンは身をもって体験しているからこそ神話の語り手たりえる。人は自分より大きな目標に向かって旅をするとき、生を生きる。神話は何をすればいいかは教えてくれない、神話は冒険者に困難に直面することを予告してくれている。
蛇足
困難なくして今生きている経験はできない
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ローマ帝国と近代国家はどこが違うのか?~『「ローマ史」集中講義』長谷川岳男(2011)
面白いほどスッキリわかる!「ローマ史」集中講義 (青春新書インテリジェンス)
イタリアの小都市国家がなぜ“世界”を制覇できたのか?(2011)
ローマの共和制
・・・ローマの貴族たちが王を廃して集団指導体制を取ったのが共和制の始まりになりますが、平民も含む市民団体全体のための体制ということを建前として、新たな社会を立てることになりました。・・・(王の権力を継承したコンスルを頂点とする)公職者に加え、有力者たちからなる諮問機関である「元老院」、さらに公職者の選挙や国全体に関わる和戦、重大事件の裁判などを行う市民総会である「民会」、という大きく分けて3つの要素からローマの共和制が運営されることになります。(40ページ)
世界市場で理想的な国制
・・・一人の支配者を頂く「王政」、少数の高貴な者たちによる統治である「貴族政」、そして民衆が実験を握る「民主制」です。これらの制度はそれぞれ安定性が乏しいため国内情勢が混乱する傾向が強く、それがコミュニティの発展を阻み、逆に対外的な弱みとして他国の侵略を許す要因であるとされました。そこでこの不安定性を除く体制だと思われたのが、「混合政体」なのです。・・・具体的に言えば、王政的要素として権力の強い公職者・・・貴族的要素として確固たる権威のある評議会機構、・・・重要な案件を決議する市民からなる民会が、おのおのバランスよく配置された制度のことです。この制度から権力の分散という着想を得てモンテスキューが三権分立を唱えて、我々の(日本国)憲法にも取り入れられている・・・。(64ページ)
アメリカの議会とローマ帝国
上院をローマの元老院(senetus)に倣ってセネト(Senete)、上院議員をセネター(senetor)と呼びましたし、パンテオンに代表されるローマ風のドーム型デザインで建設された国会議事堂を、ローマの中心地カピトリウム(Capitolium)の丘にちなんでキャピトル(Capitaol)と読んでいることが象徴しています。(246ページ)
「ローマ史」集中講義
アメリカの連邦共和制はローマ帝国の共和制を参考にしていると言われる。ローマ帝国の公職者の頂点にはコンスル=統領、大統領、執政官が位置する。最高の権力を有する職で、任期制でローマを運営する命令権を与えられる。大枠でとらえればアメリカの大統領がそれを模していると言えるであろう。西洋文明の根底にはローマ帝国の文化が存在すると考えればある意味当然ではある。
しかし一方で大きく違う点もある。当時のローマ帝国を運営する官僚はわずか300名程度の小さな政府であった。アメリカに限らず、現代の国家は肥大化し続けている。三権分立をしていても三権の組織が肥大化していくとことの弊害は大きい。ローマ帝国が1000年続いた一つには組織の肥大化を避ける仕組みがビルトインされていたことにあろう。ローマ帝国にとって奴隷制が前提だったにしても、現代の生産力を持ってすれば奴隷制が無くとも社会は維持できる。
我々は高い生産性を築くことに成功した。しかし一方でそのメリットの多くを組織の肥大化で相殺されているのかもしれない。我々の住む大きな政府は100年にも満たない経験しかない。
蛇足
ローマもアメリカも紋章は鷲
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絵を100%理解することは可能か?~『[死ぬまでにこの目で見たい 西洋絵画100]』雑誌ブルータス
BRUTUS(ブルータス) 2017年 6/15号[死ぬまでにこの目で見たい 西洋絵画100]
絵を100%理解することか可能か?
キリコの絵は謎めいていると云うことになっていますが、本当は全ての絵がそうなんです。どんなに分かり易く見える絵にも謎がありそれはつまり、私たちが全ての事象に対して解った事を確認する手段を持たないと云うことなのです。などとカミさんを持つ男は思いました。(78ページ)
【作品解説】ジョルジョ・デ・キリコ「不安を与えるミューズたち」 - 山田視覚芸術研究室 / 近代美術と現代美術の大事典
影響力と云うものを考えたとき、一個の天才性よりも一般化できる真似のしやすさがそこにはある様な気がします。影響と云うのは、それに乗っかった人達がつくるものです。(24ページ)
File:Duchamp - Nude Descending a Staircase.jpg - Wikipedia
人気画家・山口晃の死ぬまでにこの目で見たい西洋絵画100
山口氏はキリコの絵に、解ったということを確認する方法はない、というコメントをつけた。すべての絵画、すべての対象物、それには当然相対する人間も含まれ、例えどんなに親しい妻であろうとも100%理解できることはない、という当たり前の現実に気付かされる。
更に、デュシャンの絵のコメントには影響力ということの持つ意味に気づかされる。模倣できる程度の構造が無ければ、影響力は拡散していかない。デュシャンの絵が影響力を持ったのも解ってしまえば解り易い、ということである。
何の為に絵画を見るか?山口氏は、“目で触れる心地よさも絵の持つ官能性のひとつだと思う”(100ページ)とも言っている。絵を見る、ということには様々な行為が含まれてる。
蛇足
絵は描いた人、所有者、鑑賞者、立場は違えども全ての人のもの
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そもそも世界秩序は安定しないもの~『 リヴァイアサン』長尾龍一氏(1994)
世界の部分秩序である国家を、「主権」という、唯一神の「全能」の類比概念によって性格づける国家論は、基本的に誤った思想である。(1994)
主権国家は誤りである
世界の部分秩序である国家を、『主権』という、唯一神の『全能』の類比概念によって性格づける国家論は、基本的に誤った思想であり、また帝国の『主権国家』への分裂は、世界秩序に責任を持つ政治主体の消去をもたらした、人類史上最大の誤りではないか?(7ページ)
主権国家登場
西暦1500年という年のユーラシア大陸を見ると、西に神聖ローマ帝国、北にロシア帝国、東地中海にオスマン帝国(その東ではティムール朝が滅亡したばかりであったが)、インドにはムガール帝国、中国には明帝国が支配していた。・・・16世紀西ヨーロッパに、この帝国を解体させる癌種が生まれた。仏英蘭などの、「主権国家」と標榜する近代国家がそれである。
(宗教問題を棚上げする仕組みとして)宗教から独立した領域を承認し、それを基礎として現世に秩序を形成しようとする運動である。・・・近代「主権国家」は、このような潮流の中で、地域的に限定され、脱宗教化し、現世の秩序を保障する主体、宗教戦争・宗教内戦の克服者として登場した。(36ページ)
(ホッブスは)、国家を「地上にこれと並ぶ力のない」ものとして旧約聖書に描かれた海獣レヴェィアタン(英語読みのリヴァイアサン)と名づけ、これを「可死の神」と特色づけた。絶対者としての神を拘束する規範はない。獣は自然的衝動に生きるのみで、規範の主体とはなりえない。(4ページ)
・・・ドイツは、19世紀後半に主権国家になることに成功すると、神であり獣であるとされた「近代主権国家」の観念を文字通り信じ、それを実践した。「戦争の限定」を破壊して遂行された第一次世界大戦がその帰結である。(5ページ)
リヴァイアサン~近代国家の思想と歴史
主権国家は宗教戦争を解決するため、ウェストファリア条約によって誕生した。長尾氏は主権国家システムの最大の欠陥は世界的公共性が欠けていることと指摘する。そもそも主権国家は宗教戦争を棚上げするために構想されたもので、不可侵の主権を認める以上世界大戦も原理的に防ぎようがなかった。
それでは国際的公共性の担い手をどうやって作るか?現在の主権国家と国際機関がその役割を果たすには不十分であることは明らかである。世界連邦設立がユートピアである今日、解は見つかっていない。500年かかってできた主権国家システムをバージョンアップするには何年かかるのであろうか?
蛇足
長尾氏は警告する、「20世紀国際主義の担い手であった米国が“自国のことにのみ専念して他国を無視”する傾向をもってきた・・・」(8ページ)
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