毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

地球を動かす新しいビー玉を考えよう~『医薬品クライシス―78兆円市場の激震』佐藤健太郎氏(2010)

医薬品クライシス―78兆円市場の激震 (新潮新書)

佐藤氏は医薬品メーカーで創薬研究に従事、現在はサイエンスライター。巨額の投資とトップレベルの頭脳による熾烈な開発競争をもってしても、なぜ新薬は生まれなくなったのか?(2010)

 

創薬は人類最難の事業

製薬業界は、どれくらいの新製品を世に送り出しているか―。驚くなかれ、年間たったの15から20製品にすぎない。・・・これは1社の製品数ではなく、全世界数百社の製品を合わせた数字だ。世界中の巨大メーカーがよってたかって資本を投下し、分子生物学有機合成化学など各ジャンルの最先端の知識を結集して、わずか15種程度なのだ。・・・今や医薬を創り出すのは、人類のあらゆる事業のうち最も困難なこのの一つだという人さえいる。(16ページ)

医薬とはビー玉で地球を動かすこと

医薬の正体は、突き詰めれば原子数十個から成る小さな分子だ。・・・もし医薬品を1㎝の大きさに拡大したとしたら、人間の体は地球よりも大きくなってすまう計算になる。いわば医薬を創るということは、ビー玉で地球を操ろうとう試みに近い。(17ページ)

1990年以降創薬はピークアウトしている

1998年、アメリカ食品医薬局(FDA)は1年間で53品目の新薬を承認したが、2000年以降年間30品目を超えたことは一度もなく、2007年には18品目にまで落ち込んだ。この間、製薬業界全体の研究開発費総額はほぼ倍に伸びているから、単純計算で生産性は1/6に低下してしまったことになる。現在、世界の製薬企業は膨大な利益を稼ぎ出している。が、その利益をもたらしている大型医薬のほとんどは90年代に開発されたもので、その後継品は生まれていない(139ページ)

日本は創薬基盤を持つ国の一つ

現在、医薬を自前で新しく創り出せる能力のある国は、日米英仏独の他、スイス・デンマーク・ベルギーなど、世界でも十か国に満たない。広い範囲の、ハイレベルな学問を修めた人材が数多くいないと、製薬産業は成立いないものだからだ。・・・医薬を創り出せる能力は、研究者の層の厚さを示す重要な指標だ。日本が新薬を創り出せる数少ない国家の一つであり、世界の人々の健康に大いに貢献していることは、我が国がもっと世界に誇ってよいことではないかと思う。(48ページ)

 

医薬品クライシス~78兆円市場の激震

医薬は天然の物質から医薬を探してくる手法から始まった。天然由来を一通り試し終えた後は化学の手法によってフラスコ内で新しい化合物を作り、徐々に改良していく「合成法」が勃興した。そして現在はバイオテクノロジーを活用して新たなタンパク質を作り出す方向に向かっている。医薬を産業として見た場合合成法によって作られた医薬が中心であるが、その後の新薬の創出スピードはスローダウンしている。

最大の理由は合成法で創れる薬はすでに登場、残ったのは癌やアルツハイマー病など難度の高い疾病ばかりになったことである。

他の産業が流行や改善によって新製品が生み出されるのに対し、医薬においては新しい疾病に効かない新製品は必要ない。医薬品の新薬創出スピードの低下は他産業においても同様に発生していると考えるべきである。

日本は相対的に大きな市場と知的基盤である。これは他産業においても当てはまる。我々は新しいことをできる立場にいるのである。医薬が難病への薬の開発という困難に立ち向かっているのと同様、我々もそれぞれの分野で難問に取り組むことが求められている。たとえ短期的に結果が出なくてもいつかは次世代のブレークスルーを実現する。我々はそれぞれの産業で、新しいビー玉を創り出すことを考える必要がある。

蛇足

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