過去・現在・未来を行き来する方法~『死なないつもり 』横尾忠則氏(2016)
「完璧をめざすのではなく、あえて未完にする。未完は明日に続くものだから」――たえず自らに変化を求めることで新たな創作を切り拓いてきた。 今年80歳を迎えて語る、創作について、人生について。(2016)
過去・現在・未来を同時に体験する
一般的には過去・現在・未来は、1本の縦線のように流れていると考えられますが、僕にとってはそうじゃない。過去・現在・未来が一つの土壌の中に混在しているというか、同じ平面にいるのです。(55ページ)
過去・現在・未来を行き来する
過去・現在・未来を行き来することは、実はそんなに難しいことではありません。僕はよく前に描いたものを最制作しますが、それもその一例でしょう。・・・(自分が36年前に描いた絵を)模写していると(1966年に)個展のために1か月間家に籠って必死で絵を描いていたことや、案内状に三島由紀夫さんが文章を寄せてくれたこと、個展の会場にきてくれた人たちのことなど、当時を次々に思い出すという効果もありました。さらに、この絵はこう変えたら面白くなるといったアイデアが出てきて、今も「ピンク・ガールズ」の最制作を続けています。・・・現代の美術からすると、自己反復や自己模倣は否定されるのでしょうが、僕にとってはすべてが新作です。・・・こういったことで、過去と現在をつなげたり、行き来したりすることができるんです。(57ページ)
今の記録
過去と現在をつなげるためには、今の記録を残しておくことが大切。それを残しておかないと忘れてしまって、すべてが消えてしまいます。・・記録といえば、僕は1960年から日記をつけてきました。・・・個展や人に会った時は写真をたくさん撮って、どんな雰囲気だったかを残すようにしています。だからアルバムや紙焼きの写真、ネガも山のようになっています。日記を雑誌や本で発表したり、自伝的なものを書いたり。・・・僕は過去と戯れるのが好きなんです。そうして“過去”が“今”になり“未来”が“過去”になり、僕は人生を2倍、三倍と楽しんでいるのかもしれない。(58ページ)
死なないつもり
横尾氏は現在80歳で今も現役の画家である。自分の画家としての年齢は50歳に設定している。「50歳というのは画家に転向して5年目です。その頃のエネルギーや意欲、体力でものを作っているという意識でいたんです。」(114ページ)
横尾氏はグラフィックデザイナーとして活躍、1980年44歳の時ニューヨークでピカソ展を見て、ピカソの様な「創造と人生が一体化」した人生を歩んでみたい、と考えた。
1981年横尾氏は「画家宣言」を行い、人生を大きくシフトさせる。
グラフィックデザイナーとして活躍していたとはいえ、常識的に考えれば45歳での画家宣言は遅い。そして今も50歳という芸術年齢を設定して制作に取り組む。
年齢も、過去・現在・未来という括りも、絶対的なものではなく比較するためのものでしかないと気づく。未来をリアルに描くことができるのなら、それは現在や過去と並列して存在することになる。過去の日記があるなら、未来の日記があってもいい。横尾氏はそのことを教えてくれた。
蛇足
大切なこと、変化し続け、それを記録し続ける
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