毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

年末年始、1年、10年、あるいは人生の目標を考える時期~『かわいい自分には旅をさせよ』浅田次郎

かわいい自分には旅をさせよ (文春文庫)

男の堕落とはなにか――笑いと涙の極上エッセイ集(文庫は2015)

 

 

「昭和五十九年度目標事項」

書斎の押し入れには、ボツ原稿の束がいくつもの段ボールに詰められて眠っている。その中から、たまたま「昭和五十九年度目標事項」と、律儀な筆字で書かれた便箋が見つかったのである。昭和59年といえば、私は三十三歳である。その3年前に経営していた会社を潰し、天文学的な借金を抱えて苦悶していた、人生最悪のころであった。

冒頭の1行が泣かせる。

  1. 新人賞をとる

擬態的にどこの新人賞をとるつもりなのかは書いていないが、その当時ならばおそらく「群像」か「文學会」か「すばる」の新人賞を目指していたのであろう。すべてに応募したことは間違いないが、もちろん目標は達成されなかった。

・・・

それほどの苦い記憶が残っていないのはなぜだろう、とふしぎに思う。自分は小説家になるのだと信じ切っていた。だから未来は夢ではなく、現在の貧乏こそが夢のようなものだと思い込んでいた。今年も師走がやってきて、毎年恒例の「誓い」を考えなければならない。私は強欲なので、なまじ小説家になったからといって目標に不自由はない。買いたいものだって、まだいくらでもある。「昭和五十九年度目標事項」の古ぼけた便箋は、そのまま元通りに段ボールに収まった。

いつか欲望のない男に成り下がってしまったとき、この1枚の便箋は私に力を与えてくれると思う。

かわいい自分には旅をさせよ

 

浅田氏は1995年に『地下鉄に乗って』で吉川英治文学新人賞を受賞する。その11年前に書いた目標事項が出てきた。一途に小説家になると信じていた。別の所で「ひとつのことに多くの時間を費やせば、何とでもなるのが人生である。」とも言う。

浅田氏は私にできたのだから、あなたもできると言ってくれている。浅田氏はそっと肩を押してくれる。

師走はこれからの目標を考えるのによい季節である。

蛇足

 

浅田氏は目標を紙に書いた、それが目標成就の秘訣

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