毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

ニュートン以前、我々は世界をどう観ていたか?~『宇宙を動かす力は何か 日常から観る物理の話』松浦 壮氏(2015)

宇宙を動かす力は何か 日常から観る物理の話 (新潮新書)

松浦氏は素粒子物理学の研究家、「物理の本質は、身の周りに起こる現象の中にパターンを見出し、そのパターンに共通する理を見出すことで、複雑な世界をコンパクトかつ正確に理解することにあります」(2015)

 

地の世界

 

重力が発見されたのは、今から約350年前。・・・逆に言えば、ニュートン以前の人々は「重力」という概念を知らなかったことになります。この概念がない以上、当時の人たちが「石が地面に落ちる」という現象を今とは全く違う感性で理解していたはずです。落下現象を「重力」という言葉を使わずに理解するなど、想像できるでしょうか?

重力が発見される以前、石が地面に落ちる理由は「石は地の属性を持っているから」というアイデアで理解されていたようです。この世に存在するものは何かしらの「属性」が備わっていて、同じ属性を持つものは互いに集まりたがる性質を持つ、という考え方です。(120ページ)

天の世界

当時の考えでは月を始め、空の星々は「天」の属性を持っています。天というのはいわば神様の世界で、ごちゃごちゃした地上とは異なり、映しく整然とした法則に基づいて物事が動いていると考えられていたようです。(120ページ)

ニュートンは天の世界と地の世界を統合した

運動の法則に基づいて考えてみると、万有引力というのはどうやら「地球」に特有のものではないようです。・・・本来地の理であった「重力」が天の世界にも及ぶという、ある意味「不敬」なアイデアですが、検討してみる価値はありそうです。…地球が丁度良いスピードで動いていれば、地球の動く方向がいつも太陽と垂直になるように動くことができるでしょう。この場合、太陽と地球の距離はずっと変わらないままですから、地球は太陽を中心とした円運動をすることになります。…これまで神の座と考えられてきた天界が、実は地上と同じ理に支配されているというのですから、当時の人々にとってはかなりの衝撃だったはずです。(129ページ)

重力が宇宙を作っている

地上では無視して良いほど弱い重力ですが、たとえどんなに弱くとも働く力がそれだけとなれば話は違います。宇宙に浮かぶ星たちは、重力によって互いに引き合い、その運動を変化させます。宇宙スケールの現象を引き起こす最大の要因は重力なのです。(139ページ)

宇宙を動かす力は何か

 

宇宙を動かす力は重力である。ニュートンによって、重力は地の世界の運動法則から、天の世界、宇宙にも及ぶ力であると拡張された。

我々は万有引力を当たり前として受け入れている。それではその前の人間は無知だったのだろうか?天の世界は同じ属性である星々で集まり、天の世界の法則に従って動いていると考えていた。

我々は日常の中から法則を導き出す。その法則を信じることで日常に秩序を見出し、安心感を抱いていた。我々は重力による説明を受容して安心している。しかしある日、もっと拡張性のある論理が到来する可能性が常にある。ニュートン以前の人に、重力のアイデアが理解できないように、我々の理解できない理論が宇宙には未だ横たわっているのかもしれない。

蛇足

 

重力は弱く、故にどこまでも届く

こちらもどうぞ

 

kocho-3.hatenablog.com