毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

世界最大のバイオ企業成功の秘訣、それは科学~『世界最高のバイオテク企業』G・バインダー氏

 

世界最高のバイオテク企業

アムジェンは、今でもユニークな企業だ。研究開発に会社の将来を先導させる意思決定をはじめ、多くの企業とは異なるスタイルをもつ。製品開発の方向性を決める「科学」に根ざしたアムジェン流イノベーション経営の要を、元CEOのゴードン・バインダー氏がアドバイスする。(2015)

アムジェンとは

アムジェンは、アメリカカリフォルニア州ロサンゼルス郊外のサウザンドオークスに本社を置く世界最大の独立バイオテクノロジー企業である。1980年に AMgen (Applied Molecular Genetics) として3人で創業。現在は社員数約2万人。リコンビナントDNA(遺伝子組み換え)技術や分子生物学的技術を軸に医薬品の開発、製造、販売を行っている。2012年の売上高は173億ドル(世界の医薬品売上ランキング13位)。

科学に基づく会社

アムジェンはかつても今のユニークな存在だ。研究開発に会社の将来を先導させるという意思決定をはじめ、世の中の大半の(製薬)会社とは異なるやり方でやってきた。通常のやり方とは、例えば糖尿病とか関節リウマチとか対象とする市場を決めて、次に患者のためになる医薬品や装置を開発というものだ。ところがアムジェンでは、どのような製品を開発すべきかを決めたのは科学である。通常のやり方でもかなり成功することは可能だったと思われるが、それでは真の革新者の地位を築くことはできなかっただろう。(14ページ)

科学に基づけ~アムジェンの価値観より

我々の成功はビジネスの全ての面において、科学的手法の応用による革新、誠実さ、継続的改善の実践に依存している。科学的手法とは、正しい実験をし、データを収集して分析し、合理的な意思決定をするという多段階のプロセスである。主観や感情を排した、論理的でオープンで合理的なプロセスである。どの部門も科学的手法の尊重が求められる。(19ページ)

 

優秀な人材

優秀な人材は次のようなメリットをもたらしてくれる。

・勝利するチームでプレイしたいとおいう他の有能な専門家をその組織に引き寄せる

・望ましいライセンシングの機会を引きつける

・提携において最も成功している企業のい関心を持たせる。

確かに、アムジェンの人材は長年にわたる成功の鍵の一つである。(89ページ)

世界最高のバイオテク企業

アムジェンは世界最大のバイオに特化した製薬会社である。本書の著者バインダー氏は黎明期からCFO、そして2代目のCEOとなった経歴を持つ。

本書ではアムジェンが創業したとき、遺伝子組み換え技術を中心にした製薬メーカー、というコンセプトは決まっていたが何を開発するか、は決まっていなかったという。更に驚くべきはアムジェンはバイオベンチャーでは第二世代、つまり既に競合が存在していた。最初の開発品であるEPOと呼ばれる遺伝子組み換えによるホルモン製剤の導入にあたっても、アムジェンが優先的に交渉できた訳ではなかった。

それではアムジェンが成功した要因は何だったのか?バインダー氏は科学をに基づく、科学者を大切にする、という姿勢こそが成功の要因であったと言う。アムジェンが特別すごい技術を持っていた訳でもなく、他社より先行していた訳でもない。そこにあるのは科学者=社員を大切にする、というシンプルなスタンス、である。優秀な科学者を引き寄せる正攻法であった。テクノロジーの権化の様なバイオテクノロジーの会社にあったもの、会社の理念を貫徹する経営スタンスであった。

蛇足

著者バインダー氏の出身は科学者ではない

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産業のモジュールはいつ始まったのか?~『 モジュール化―新しい産業アーキテクチャの本質』青木昌彦氏×安藤晴彦氏(2002)

 モジュール化―新しい産業アーキテクチャの本質 (経済産業研究所・経済政策レビュー)

 モジュール化とは、単なる分業ではない。全体として統一的に機能する包括的デザイン・ルールのもとで、より小さなサブシステムに作業を分業化・カプセル化・専門化することによって、複雑な製品や業務プロセスの構築を可能にする組織方法である。(2002)

 

 

1964年IBMが初めてのモジュール型コンピュータを開発

IBMや他のメインフレーム・メーカーのそれまでのモデルは、それぞれ独自で、共通性もなく、各モデルは固有のOS、プロセッサ、周辺機器やアプリケーションソフトを持っていた。・・・・エンドユーザーが、新しい装置に切り替えるときには、貴重なデータを失うリスクにさらされたのであった。・・・システム/360の開発担当者たちは、こうした問題に正面から挑戦した。コンピュータで「ファミリー」の概念を考え出し、様々な用途にそれぞれ適したサイズを持つが、実行命令セットはすべて同一のものを用い、周辺機器も共有できるようにした。(38ページ)

IBMメインフレーム市場を独占するが、、、

しかし、「モジュール化」は長期的にはIBM帝国を侵食することになった。・・・IBMのデザインルールに従いながらも、特定領域に専門特化することで、新興企業でも、IBMの内製製品に比べ、より良いものを作ることができた。最終的には、これらのモジュールの周辺で成長したダイナミックで革新的な産業が、まったく新しい種類のコンピュータ・システムを生み出し、メインフレームの市場シェアのほとんどを奪いとってしまったのである。(39ページ)

モジュール化のリスク

IBMは、自社のシステムのモジュール化を反映して、社内での設計努力を増やしてこなかった。このため、利益の見込めるモジュール設計の機械を卓上に置きっ放しにしていたのである。(88ページ)

IBMの大型機におけるモジュール化は、基本的に企業内で行われたもので、大型機の部品は半導体メモリや磁気ディスクに至るまで内製化され、全盛期のIBMは世界最大の半導体メーカーであった。しかし、モジュールの境界は、企業の境界と一致する必要はない。この点で、モジュール化されたアーキテクチャ垂直統合型の企業組織の間には潜在的な矛盾があった。(116ページ)

安定した連結ルールの下では、各モジュールの設計に必要な情報処理は他から隠されうる。(25ページ)

 

モジュール化

モジュール化の流れは1964年IBMメインフレームから始まった。この流れはIBMから多くのスピンオフを生み、ベンチャーの新規参入を誘い、最終的にはコンピュータ業界全体をモジュール化させることになる。

モジュール化のメリットは①分業により巨大かつ複雑なシステムを実現できる、②各モジュールは平行作業が可能となりスピードが上がる、③モジュール構造は変化への対応力を保持する、と言われる。

一方モジュール化は組織も同様に分権化していく傾向を持ち、適切な権限移譲が行われなければスピンオフしていく。更に言えばモジュール化された情報は例えアーキテクチャ全体をデザインした者(たとえばIBM)と言えども、ブラックボックス化される。モジュール化された市場では、メリットもあるがリスクもある。

モジュール化の流れはコンピュータ業界から始まり、様々な産業にも広がり同じトレンドをモジュール化が始まって50年、まだその終着点は見えてこない。

蛇足

モジュール化を今風に言えばオープンアーキテクチャ

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これからやろうとしていることに本当に意味があるか?~『トヨタが実践する価値創造の確かな進め方 リーン製品開発方式』A・ウォード氏(2014)

トヨタが実践する価値創造の確かな進め方 リーン製品開発方式

 A・ウォード氏は米軍勤務を経て開発プロジェクトの管理手法の研究を行った人物。自動車において短期間、低コストと高い競争力を持つ製品開発をどうやって行うか、についての専門書。(2014)

 

無人陸上車の検討

何年か前に、私は陸上の無人陸上車(UGV)計画のレビューをした。私はそのどれもが戦術的に有用なシステムを生み出さないと予想し、実際にその通りであった。なぜかというと、一つの理由は物理法則のためだ。UGVが意味を持つには、有人車両より小さくなければならない。車両が人を入れるだけ大きければ、人を乗せてその性能を上げることができるからだ。

しかし、車両が小さくなればなるほどオフロードに散らばる障害物をつぶして進む能力が低下する。物体の強度は寸法の2乗に比例して増えるのに、(障害抵抗力を強くする)重量は3乗に比例して増えるからだ・・・重量との関係で、小型車は大型車よりも障害に弱い。だからタンク(戦車)は、小型車では通過できないような地形でも突き抜けることができる。

もっとも重要な質問を定義する

良いシステム設計者なら、小型の有人車両で無人車両を検証した実地試験から始めただろう。陸軍の技術専門家は「無人陸上車を製作できるか」という質問を設定した。しかし。それよりも重要な質問は「無人陸上車は役に立つか」という視点である。(158ページ)

 

リーン製品開発方式

製品開発を効率的に進めるためにどうしたらいいか?突き詰めると製品開発によって新たにどういう価値創造を行うか?、ということに突き詰められる。それは無人陸上車の検討において、顧客=前線の軍隊において「無人陸上車は役に立つか」という質問を行うことである。無人陸上車が役に立たないのにそのプロジェクトを進めることこそ無駄なことはない。

これは製品開発だけでなく、我々の行動のすべてで必要な問いかけ、と言える。私のやっていることに何の意味がるのか?私が給料を貰えるから、ではなくそれが顧客の役に立つか?という質問を繰り返すことである。

リーン製品開発はトヨタの開発方式から多くを学んでいる。いわゆるカンバン方式=ジャスト・イン・タイムは必要なものを必要なときに用意すること。逆に言えば必要の無いものを作ることは究極の無駄であり、それを排除しようとする思想である。

今やっていることは今本当に必要なことか?上司ではなく、顧客の役に立っているか?どうやったら顧客にもっとよい付加価値を提供できるか?

意味のないことをやる以上の無駄はない。

蛇足

究極の質問の答は時に残酷、である。

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飢餓状態は細胞の長寿命に貢献している!?~『細胞が自分を食べる オートファジーの謎』水島 昇氏(2011)

細胞が自分を食べる オートファジーの謎 (PHPサイエンス・ワールド新書)

2016年大隈氏が酵母のオートファジーの研究でノーベル賞を授賞した。著者の水島氏は大隈氏の研究室でオートファジーの研究を開始した経歴を持つ。(2011)

 

オートファジーとは

細胞が持っている、細胞内のタンパク質を分解するための仕組みの一つ。自食(じしょく)とも呼ばれる。酵母からヒトにいたるまでの真核生物に見られる機構であり、細胞内での異常なタンパク質の蓄積を防いだり、過剰にタンパク質合成したときや栄養環境が悪化したときにタンパク質のリサイクルを行ったり、細胞質内に侵入した病原微生物を排除することで生体の恒常性維持に関与している。(Wiki

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 水島研究室 分子生物学分野|オートファジー (自食作用) と呼ばれる細胞内の大規模な分解系を中心に、タンパク質代謝、栄養シグナル、細胞内品質管理などの研究をしています。

単細胞のオートファジー

・・・(単細胞である酵母では)オートファジーは栄養飢餓のときに活性化され、オートファジーを起こせないと細胞が早く死んでしまう。このとき起こるオートファジーは、細胞が自らのタンパク質を分解してでも、そのときに必要なアミノ酸を得るために大切である。これらのアミノ酸は飢餓に適応するためのタンパク質を作るのに利用されているのである。(84ページ)

多細胞生物のオートファジー

・・・ある程度の長さ寿命をもつ(多細胞生物の)細胞にはオートファジーは必須なのであろう。・・・多細胞生物となると固体の寿命も伸び、細胞の使い捨てだけでは生命の維持は困難となった。そこで生物は巧妙にもそれまで飢餓応答システムとして用いていたオートファジーを細胞内浄化システムとして転用するようになったのではないかと考えられる。特に、私たち人間のような長寿命生物にとってはむしろ飢餓対応としての役割より、細胞内浄化としての役割のほうがはるかに重要であるのかもしれない。(139ページ)

カロリー制限とオートファジー

オートファジーは栄養飢餓時に活性化される細胞機能である。一時的飢餓あるいは軽度の飢餓はオートファジー亢進を通じて細胞内をきれいにし、さらには長生きをもたらすことができるかもしれない。

寿命の研究は、現在さかんに行われているが、大きな注目を集めているのがカロリー制限による寿命延長効果である。・・・カロリー制限は完全は絶食でじゃなく、普通の食事の60%程度のカロリーを抑えるというのが一般的な方法である。しかし、この程度の弱い飢餓でもオートファジーが誘導されることが線虫やマウスの実験からわかっている。・・・過度の食事がさまざまな悪い効果を及ぼすことはよく知られた事実であるが、オートファジーを不活性化することで新陳代謝を抑制していることもその一因である可能性もある。少なくとも細胞レベルで見た場合、過剰な栄養は新鮮さを害うと言えるだろう。(209ページ)

 

細胞が自分を食べるオートファジーの謎

本書により初めて飢餓状態と長寿命の可能性について理論的に理解することができた。人間の寿命が長くなれば細胞の寿命も今までより長くなる。ほうっておけば細胞内部がどんどん汚れていく。これをオートファジーによって細胞内の“ゴミ“を分解、アミノ酸に戻すことでリサイクルをしているのである。

カロリー制限や絶食が寿命を伸ばせるのではないか、ということを知識としては知っていた。例えば宗教家が食事制限も含む修業を行った場合、修業を通じ精神的な安定を獲得することが長寿命に繋がっているのであろうと思ってきた。飢餓状態はオートファジーを亢進させ細胞レベルでのリサイクルを加速、修業が医学的にも長寿に貢献している可能性があることになる。分子生物学はこれらのメカニズムを解き明かそうとしている。

蛇足

オートファジーは細胞内のリストラ

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思考停止に気付く、このセリフ~『 叡智の断片』池澤夏樹氏(2011)

 叡智の断片 (集英社文庫)

 池澤氏は小説家、独自の視点で選んだユーモラスで味わい深い言葉の数々は、今を生きる私たちの心にじわりと効く妙薬。(2011)

 

中絶と死刑

ブッシュ大統領は中絶には反対で死刑には賛成なの。釣りでいうキャッチ・アンド・リリースね。大きくなってから殺すために小さいのは放してやるわけ。

                 エレイン・ブースラー(米・コメディエンヌ1986)196ページ

 

 

叡知の断片

米国では中絶、死刑が大きな政治上の論点になる。宗教的な理由も大きい。中絶も死刑も無い方がいいに決まっている。紳士・淑女が軽々しく話題にしない方がよいテーマである。

ブースラー女史のセリフはコメディの域を超え、考えさせる。死刑と中絶を比べることで、国家と人間の生命の関係という本質を考えさせられる。そして今までこのことに正面から考えていなかったことに思い至る。

我々は日々考えずに行動している。ブースラー氏のセリフはそのことを教えてくれた。

蛇足

思考停止から解き放つもう一言、

銀行を創設する奴に比べたら、銀行強盗なんてケチな犯罪者だ

ベルトルト・ブレヒト(独・劇作家1928)

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お金だけでは未来は作れない~『 ブーメラン 欧州から恐慌が返ってくる』M・ルイス氏(2012)

 ブーメラン 欧州から恐慌が返ってくる (文春文庫)

サブプライム危機で大儲けした男たちが次に狙うのは「国家の破綻」。アイスランドアイルランドギリシャ、ドイツ、そして日本。(単行は2012、文庫は2014)

 

元々アイスランドは豊かだった

(漁業によって経済発展するために)めざすべきは、漁業にもっと多くの網や、もっと大きな船を買わせることではない。最小の努力で最大の漁獲高を得させることだ。・・・アイスランド政府は思い切った行動に出た。魚を私有化したのだ。漁業ひとりひとりに、過去の実績を参考にした水揚げ高が割り当てられた。・・・さらに都合のいいことに、漁をしたくなければ、自分の権利を、漁をしたい人間に売ることができた。水揚げ高は、最も地位の高い大手の漁師たち、つまり最大の効率で水揚げできる漁師たちの手もとに流れ込んだ。・・・新たな富みがアイスランドを変貌させ、千百年のあいだ隔絶されていた孤島が、(世界的なポップアーティストである)ビョークを生み出す国へと変わったのだ。(64ページ)

・・・アイスランドの若者たちは、留学費用が支給され、自分が興味を持つあらゆる分野で、教養を身につけることが奨励された。漁業政策による構造改革のおかげで、アイスランドは事実上、鱈(タラ)を博士号に変換させる機関になった。・・・距離を置いてアイスランド経済を眺めてみると、とても不自由な現象に気付かずにはいられない。国民が身につけた教養のレベルが高すぎて、実際に就く職業の適正と噛み合わないのだ。高度な教育を受け、知的に洗練されていて、各々が自分特別な存在だと思っている人々に、生業としてあてがわれるのが、労働条件の悪さが目立つふたつの職業、つまり、トロール漁と(易い電力を活かした)アルミニウム精錬なのだから、、、。・・・21世紀の夜明けになっても、アイスランド人たちは相変わらず、もっと自分たちの繊細な知性に見合う仕事がアイスランド経済の内部に現れる日を、そしてその職に就ける日を、待ち続けていた。そこへ、投資銀行業が登場する。(67ページ)

2003年、アメリカ型の金融を始める

アイスランド人たちは、金融とは生産的な企業活動より仲間同士の紙切れのやり取りを重視するものであることをただちに理解した。そして、金を貸すときには、ただ企業活動の援助をするだけでなく、友人や家族に資金を提供して、ほんものの投資銀行並にさまざまな資産を購入し、所有できるようにした。・・・それがアメリカ型の金融からアイスランド人が学んだ最大の知恵だった。重要なことは、右肩上がりに価値を高めていく資産を、借りた金で可能なかぎり多く買い集めること。2007年には、アイスランド人が所有する外国資産は2002年のおよそ50倍になっていた。(45ページ)

アイスランドのその後

アイスランドは2008年の金融危機以前、反映を謳歌していた、一人当たりGDPでは世界第5位、に国際競争力はヨーロッパ1位であり、人口30万人ながら強い経済力を持っていた。2006年当時産業としては金融部門の伸びが著しく、金融不動産GDPに占める割合は、26%に達していた。

アイスランドの金融は急拡大した。世界的な資産価値の上昇を背景に、借りた金で世界中の資産を買い漁った。資産価格の上昇が続いている間は儲かっているように見えていた。金融危機により今度はそれが逆回転した。

2009年アイスランドのすべての銀行は国営化、不良債権は国家に付け替えられた。その結果アイスランドの通貨は100%減価、国家破綻寸前に至る。その後通貨安に助けられ輸出と観光により持ち直し現在に至っている。

漁師たちは投資銀行家になった~ブーメラン

どうしてアイスランドが金融に傾倒していったか?高度な教育を受けた若者の知的好奇心を満足させるだけの産業がアイスランドには無かった。金融は知的好奇心を満足させられる産業に思えた、ということである。

この状況は日本を含む先進国共通の課題であろう。基本的に衣食住の問題が解決し従来型の産業の成長が鈍化する中、知的産業へのシフトが求められている。しかし新産業育成には時間がかかる。アイスランドと同じである。

我々の課題は次世代の為に新しい産業を用意することである。

蛇足

未来はお金だけでは作りだせない

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我々の社会は未だ直系家族的であった~『エマニュエル・トッドで読み解く世界史の深層 』鹿島茂氏(2017)

エマニュエル・トッドで読み解く世界史の深層 (ベスト新書)

 鹿島氏はフランス文学者、あらゆる問題は、トッドの家族システムという概念で説明ができる!(2017)

 

トッドの家族人類学理論

・・・結論から先にいうと、トッドの家族人類学理論の勘どころは、従来、家族の分類としては核家族と大家族(夫婦が2組以上同居する複合家族・拡大家族)という区別ポイント(変数)しかなかったところに、兄弟間の遺産相続という問題に注目して、兄弟の平等・不平等というパラメータを配した点です。(23ページ)

 

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https://mainichi.jp/articles/20160229/ddf/008/040/031000c

私がトッドに興味を持ったきっかけは「集団の無意識」というものへの関心からでした。・・・資本主義が発展していくと、(集団の)眠りは深くなり、集団はそのなかで夢をみる。それは集団の無意識としてさまざまな形態となって現れる。たとえば、パサージュ 、万博会場、鉄道駅あるいはモード、広告など。だから集団の無意識」を解き明かすには、こうした夢の形象について考えなければならない。・・・(最終的に)たどり着いたのが人口動態学でした。人口にこそ集団の無意識が最も強く現れていると確信・・・トッどに行き着いたわけです。・・・家族類型、女性識字率、といったトッドの提示する概念こそが人類の無意識を解く最も重要なパラメータだと今は思っています。(35ページ)

集団をつくると直系家族的組織になる日本人

日本人は集団をつくると必ず直系家族的な構造にしてしまいます。後からそうした集団に入る人間は、すでに構造ができあがっていますから、合せていかなくてはなりません。この「後から入った」という感じがすでに直系家族原理に無意識にとらわれている証拠です。会社では「きみ、何年入社?」「ぼくと同期?」というような会話がしばしなされます。(82ページ)

明治維新と直系家族的組織

国家を統一し、政治を長く安定させていくためには、よく統率された組織が必要となる、と彼ら(明治維新の指導者)は考えたのでしょう。そのためには、直系家族的なタテ一本の構造をつくり、その頂点に、権威ある父親的な存在(としての天皇)を置かなければならない、と考えたのです。(167ページ)

直系家族的組織の欠点

直系家族では父親に権威があるということになっています。しかし、この権威ある父親はほとんど主体的な意思決定を行わないのです。・・・権威者である父親の意をくんで、はやりの言葉でいえば「忖度して」、それぞれの成員がその意を実現する方向に向かって一斉に行動するのです。・・・このような意思決定者の不在、意思決定機関の不能という事象は、いま現在の日本でも至るところで目にすることができます。(178ページ)

 

エマニュエル・トッドで読み解く世界史の深層

どうしてフランス文学の鹿島氏がトッドを研究していたのか?元々集団の無意識に関心があり人口動態学に行き着いたと知り、合点がいく。

日本では核家族化し直系家族的組織の影響は薄くなっている、と思っていた。大企業では年功序列という直系家族的組織を残しつつも、どちらかと言うと批判的に捉えられ、社会全体としては直系家族的組織の行動は薄くなりつつある、と思っていた。考えてみれば学校までが直系家族的組織で運営されており簡単にはその影響は無くならない。鹿島氏は直系家族的組織と意思決定能力の欠如が加わったときのリスクにも言及する。

核家族化が進んだとしても、社会全体としてみれ直系家族的組織の影響が大きく、大きなリスクを内包している、と気付く。

蛇足

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