飢餓状態は細胞の長寿命に貢献している!?~『細胞が自分を食べる オートファジーの謎』水島 昇氏(2011)
細胞が自分を食べる オートファジーの謎 (PHPサイエンス・ワールド新書)
2016年大隈氏が酵母のオートファジーの研究でノーベル賞を授賞した。著者の水島氏は大隈氏の研究室でオートファジーの研究を開始した経歴を持つ。(2011)
オートファジーとは
細胞が持っている、細胞内のタンパク質を分解するための仕組みの一つ。自食(じしょく)とも呼ばれる。酵母からヒトにいたるまでの真核生物に見られる機構であり、細胞内での異常なタンパク質の蓄積を防いだり、過剰にタンパク質合成したときや栄養環境が悪化したときにタンパク質のリサイクルを行ったり、細胞質内に侵入した病原微生物を排除することで生体の恒常性維持に関与している。(Wiki)
水島研究室 分子生物学分野|オートファジー (自食作用) と呼ばれる細胞内の大規模な分解系を中心に、タンパク質代謝、栄養シグナル、細胞内品質管理などの研究をしています。
単細胞のオートファジー
・・・(単細胞である酵母では)オートファジーは栄養飢餓のときに活性化され、オートファジーを起こせないと細胞が早く死んでしまう。このとき起こるオートファジーは、細胞が自らのタンパク質を分解してでも、そのときに必要なアミノ酸を得るために大切である。これらのアミノ酸は飢餓に適応するためのタンパク質を作るのに利用されているのである。(84ページ)
多細胞生物のオートファジー
・・・ある程度の長さ寿命をもつ(多細胞生物の)細胞にはオートファジーは必須なのであろう。・・・多細胞生物となると固体の寿命も伸び、細胞の使い捨てだけでは生命の維持は困難となった。そこで生物は巧妙にもそれまで飢餓応答システムとして用いていたオートファジーを細胞内浄化システムとして転用するようになったのではないかと考えられる。特に、私たち人間のような長寿命生物にとってはむしろ飢餓対応としての役割より、細胞内浄化としての役割のほうがはるかに重要であるのかもしれない。(139ページ)
カロリー制限とオートファジー
オートファジーは栄養飢餓時に活性化される細胞機能である。一時的飢餓あるいは軽度の飢餓はオートファジー亢進を通じて細胞内をきれいにし、さらには長生きをもたらすことができるかもしれない。
寿命の研究は、現在さかんに行われているが、大きな注目を集めているのがカロリー制限による寿命延長効果である。・・・カロリー制限は完全は絶食でじゃなく、普通の食事の60%程度のカロリーを抑えるというのが一般的な方法である。しかし、この程度の弱い飢餓でもオートファジーが誘導されることが線虫やマウスの実験からわかっている。・・・過度の食事がさまざまな悪い効果を及ぼすことはよく知られた事実であるが、オートファジーを不活性化することで新陳代謝を抑制していることもその一因である可能性もある。少なくとも細胞レベルで見た場合、過剰な栄養は新鮮さを害うと言えるだろう。(209ページ)
細胞が自分を食べるオートファジーの謎
本書により初めて飢餓状態と長寿命の可能性について理論的に理解することができた。人間の寿命が長くなれば細胞の寿命も今までより長くなる。ほうっておけば細胞内部がどんどん汚れていく。これをオートファジーによって細胞内の“ゴミ“を分解、アミノ酸に戻すことでリサイクルをしているのである。
カロリー制限や絶食が寿命を伸ばせるのではないか、ということを知識としては知っていた。例えば宗教家が食事制限も含む修業を行った場合、修業を通じ精神的な安定を獲得することが長寿命に繋がっているのであろうと思ってきた。飢餓状態はオートファジーを亢進させ細胞レベルでのリサイクルを加速、修業が医学的にも長寿に貢献している可能性があることになる。分子生物学はこれらのメカニズムを解き明かそうとしている。
蛇足
オートファジーは細胞内のリストラ
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