毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

ウィルスは細胞から退化した生物、という仮説~『巨大ウィルスと第4のドメイン 生命進化論のパラダイムシフト』武村 政治 氏(2015)

巨大ウイルスと第4のドメイン 生命進化論のパラダイムシフト (ブルーバックス)

武村氏は細胞進化学などの研究者、次々と発見される巨大ウイルスは、サイズが大きいだけでなく、多彩な遺伝子を持ち、細胞性生物に近い機能を備えているものもいる。これらの新発見により、「ウイルスは生物ではない」という定義が揺らぎはじめた。(2015)

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2002年ミミウィルスが発見

 

 

直径がおよそ0.75マイクロメートルとそれまでのウィルスにはない破格の大きさを持っていることがわかった、これはゆうに、光学顕微鏡で確認できるほどであり、実際そうして発見された。(21ページ)

 

 

この新たな「巨大ウィルス」のゲノムは(それまで最大だと思われていた)ボックスウィルスよりはるかに大きく、およそ120万bp(ゲノムサイズ)、遺伝子の数も980個にものぼることがわかった。このゲノムサイズは、独立した(単独で培養することが可能な)細胞性生物である細菌マイコプラズマ(58万bp)より大きく、遺伝子数も多い。

 

 

ミミウィルスは、感染した細胞の中に、その細胞核とほぼ同じ大きさの、細胞核と見紛うような構造を作り出す。それは、最初に発見されたとき、宿主細胞の細胞核だともんとうに思われたほどだった。(98ページ)

 

そもそもウィルスとは

 

ウィルスは細胞を構成単位としないが、遺伝子を有し、他の生物の細胞を利用して増殖できるという、生物の特徴を持っている細胞をもたないウィルスは、非細胞性生物、あるいは、生物というよりむしろ"生物学的存在"といわれている。(Wiki

ウィルスの起源

 

ウィルスの起源に関してはいくつもの仮説が林立し、いまだに決着を見ていない。一つはかつて細胞であったものが、余計なものをどんどんそぎ落していって、その結果として必要最小限のパーツのみが残ったものがウィルスである、という考え方だ。(122ページ)

 

(もっとも単純な細胞性生物である)マイコプラズマにあってウィルスにないものといえば、「リボゾーム」「細胞膜」、そして種々の代謝産物であろう。リボゾームは、タンパク質を合成する装置であり、細胞膜は文字通り、細胞の表面を覆う脂質二重膜だ。・・・リボゾームを捨て去るということは、自分でタンパク質を作れなくなることを意味するわけだから、自分の力だけでは生きていけなくなる。独立した生物としてこれ以上のデメリットはない。・・・メリットとは、エネルギー消費量を極端に抑えることに成功したことと、サイズを小さくすることにより格段に高い機動性を獲得したこと。いわば「身軽」になった。(125ページ)

 

巨大ウィルスの持つ意味

 

著者は巨大ウィルスは真核細胞と共進化してきた可能性があるという。巨大ウィルスが宿主の細胞に取り込まれた時、巨大ウィルスによって細胞核が形成された。巨大ウィルスは真核生物の進化と多様化に大きく貢献したことになる。

生物の定義の一つが細胞を形成していることである。ウィルス起源の仮説によれば、ウィルスはかつでは細胞を形成していたものが細胞膜を失った存在である。つまりはかつては生物であった巨大ウィルスが生物ではなくなった、ことになる。著者は生物の定義とは細胞の有るか無いか線を引けない、もっと漸進的なものであると説明する。巨大ウィルスは漸進的な存在と言える。

蛇足

 

ウィルスは細胞から退化した存在

 
 
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