毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

歴史人口学、家族人類学の視点から見たヨーロッパ~『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる ~日本人への警告』エマニュエル・トッド氏(2015)

「ドイツ帝国」が世界を破滅させる 日本人への警告 (文春新書)

 トッド氏はフランスの歴史人口学、家族人類学の研究家。冷戦終結と欧州統合が生み出した「ドイツ帝国」。EUとユーロは欧州諸国民を閉じ込め、ドイツが一人勝ちするシステムと化している。(2015)

 

ドイツ帝国の誕生

 

 

冷戦崩壊によって生まれた「ドイツ帝国」。EUの当方拡大によってドイツは、社会主義政権下で高い水準の教育を受けた良質で安い労働力を活用し、経済を復活させ、ヨーロッパを支配するに至っている。東欧でNATOが安全を確保しているのは、実はドイツの空間。ロシアは、ソ連時代、東欧諸国を支配することによる軍事的なコストを経済的な利益で埋め合わせることができず、かえって弱体化したが、アメリカのおかげで、ドイツにとって軍事的支配のコストはゼロに近い。(口絵解説より)

 

ロシア社会

 

プーチン支配下のロシアでかつてとは逆に、乳幼児死亡率が目ざましく低下しつつあるという現象なのです。平行して、それ以外の人口学的指標も有意の事態改善を示しています。男性の平均余命、自殺と殺人の発生率、また何よりも重要な出生率などの指標です。(82ページ)

(ロシア社会が)他によい言い方がないので私が仕方なく「権威主義的デモクラシー」と呼ぶものに繋がっているのです。すなわち、強力で粗暴でさえあるが、それにもかかわらず大多数の国民から暗黙の支持を受ける体制です。(89ページ)

国土とその資源を優秀・有能な軍隊で守りながら、世界経済がアジアと新しいテクノロジーへの移行を完遂するのを待つという戦略です。・・・(プーチンが)別の選択をして、労働力を必要とする工業を迎えたり、消費財の輸出産業を発展させたりするということは考えにくい。(92ページ)

アングロサクソンのアメリカとドイツ

 

ある意味で現実主義的な人類学者の観点から見て、あるいは数世紀に及ぶ長い期間に注目する歴史家の観点から見て、アメリカとドイツ同じ諸価値を共有していない。リベラルな民主主義の国であるアメリカはルーズベルトを登場させた。ところが権威主義的で不平等な文化の国であるドイツはヒトラーを生み出したのだ。(63ページ)

アングロサクソンの社会文化は、平等的ではないが、本当に自由主義的だ。・・・同じ家族内の兄弟間のリーズナブルな差異から、個々人の間の、また諸国民の間のリーズナブルな差異という考え方が生まれてくる。そもそもそこに、アメリカモデルの成功の理由があるのだ。(70ページ)

家族システムという視点

 

トッド氏はこの中で世界の家族制度を分類し、大胆に家族型と社会の関係を提示した。通常なら下がり続けるはずのが、ソビエトでは乳児死亡率が1970年から上がり始めたことを指摘し、ソ連の崩壊を予見した事でも知られる。

トッド氏はドイツの様な家父長制の文化背景を持つ国は帝国を形成すると中央集権化させて上手くコントロールできないと主張してきた。今やドイツはヨーロッパをユーロという通貨を握る事で支配している、そしてそれは「世界の破滅」へ繋がりかなない、というのが本書の背景にある。

アメリカはドイツがヨーロッパをコントロールしているという事実を受け入れざるを得ない局面に至っているという。

家族システムと人口動態に基づくトッド氏の視点、フランス人であるトッド氏のフランス人としてのアイデンティテイ、ヨーロッパの地勢学的位置、私が接する日常とは違う視点を与えてくれる。

蛇足

 

日本も家父長制(だった?)

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