毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

発見、結びつけ、発明、に必要なこと、それは動きまわること~『ユダヤ人、世界と貨幣――一神教と経済の4000年史』ジャック・アタリ氏(2015)

ユダヤ人、世界と貨幣――一神教と経済の4000年史

ジャック・アタリ氏はフランスの政治経済の実務家であり思想家。ノマード”、すなわちユダヤ人たちは、人類史上、グローバリゼーションの先駆者である。数多くのユダヤ人たちは、なぜ、世界中で活躍できたのか?(2015)

 

ユダヤ人とノマード

ユダヤ人はほぼ3000年、旅人によって行われる3つの仕事を行ってきた。すなわち、発見、結びつけ、革新(発明)である。こうした貢献がなければ、どんな開かれた社会も生き延びることはできなかっただろう。(599ページ)

最初の発見~一神教

最初の発見は、神の単一性の発見である。このような洞察はノマードでなければできなかった。旅をすることで、彼らは多くの神々を伝播させた。伝播させることで、結局種々の神々が一つの神に溶解していったのである。この神は彼らとともに至るところに広まる。この神はもはやある土地の神ではない。・・・彼らの神はすべての神でなければならないのである。(599ページ)

一神教から貨幣へ

多神論が唯一神に置き換えられたように、貨幣が物々交換に取って代わる。・・・神の思想と同様に、貨幣はノマード的抽象である。神と同様に、しかもすべてのほかの土地で、貨幣は全能、無謬、嫉妬、理解を超えたもの、集団生活の組織者として出現する。神と同様、貨幣は旅を簡単にする。貨幣は発見の手段である。(600ページ)

結びつけ

発見することは、アプリオリにそれぞれ関係していない領域を、ただ結びつけることである。たとえば、ジーグムント・フロイトは夢とセックスを結びつけ、アルバート・アインシュタインは音波(光波?)と粒子を結びつけ、ガブリエル・リップマンは化学と写真を結びつけた。(601ページ)

発明

ユダヤ人は輸出し、世界を結びつけるのと同様輸入も行う。一度定住者に認められ、定住者の民族を相互に結びつけることで、彼らはそこで見つけたものを、別のもの、商品、資本、思想に変える。そもそも外国人の最初の職業は、彼らを歓迎する人びとに外国の生産物を供給することである。だからリスボンに胡椒、アントワープにダイヤモンド、イタリアにコーヒー、リスボンにタバコ、アメリカにユニフォーム、ドイツの皇帝に貴重な絹製品を供給する。(602ページ)

現代のノマード

 

本書によれば2002年現在ユダヤ人は1250万人、うち(異邦の地で生活する)ディアスポラ(注)は750万人だという、ユダヤ人は3000年に渡ってディアスポラする集団によって世界を相互に結びつけてきた。グローバルエコノミーはノマードと定住者の両方が存在し、双方が利益を得ることで成立している。ユダヤ人は今や小子高齢化の為減少している。ディアスポラは900万人から750万人に減少したという。平和が続くとユダヤ人も定住し同化が進んでいく。

注)ディアスポラ

植物の種などの)「撒き散らされたもの」という意味のギリシャ語に由来する言葉で、元の国家や民族の居住地を離れて暮らす国民や民族の集団ないしコミュニティ、またはそのように離散すること自体を指す。(wiki

世界はノマードと定住者の双方を必要としている。しかし、ノマードの活動を取り入れるにはリスクをとる必要がある。発見、結びつけ、革新(発明)を行なうには苦労も覚悟も必要なのである。そしてその恩恵は定住者と分かち合うことでしか享受できない。

蛇足

 

すべての人間は、救われるために他者を必要としている。(620ページ)

こちらもどうぞ

 

kocho-3.hatenablog.com