毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

ヨーロッパ的とはどういう意味か?~『1492 西欧文明の世界支配』ジャック・アタリ氏(2009)

1492 西欧文明の世界支配 (ちくま学芸文庫)

 1492年にコロンブスが間違って「インド」を発見して以降、それまで栄えていた中国・イスラム世界・アフリカ・アメリカ大陸の独自の文明は、すべてが抹殺されることになった。これを境に世界は、西洋近代化への道を突き進んでいく。(単行は1994年、文庫は2009年)

 

1492年という年

西ローマ帝国が崩壊すると、ヨーロッパは多くの支配者によって鎖でつながれ、ほぼ1千年の間眠る。それから偶然とも必然とも言えようが、あるときヨーロッパは自分を取り囲む者たちを追い払って世界征服に乗り出し、手当たり次第に民衆を虐殺し、彼らの富を横領し、彼らからその名前、過去、歴史を盗み取る。1492年がそのときである。この年、3隻のカラヴェル船が偶然ひとつの世界を発見する。ヨーロッパ最後のイスラム王国が崩壊する。ユダヤ人がスペインから追放される。(12ページ)

ヨーロッパが始まる

この年ヨーロッパは大西洋に目を向け、東洋とその過去のことや地中海とそのイスラム勢力のことは忘れさる。ヨーロッパはもはやイスラエルではなく、ローマになることを夢みる。マラーノ的生き方とともに、近代的知識人が出現する。やがて合理主義とかプロテスタンティズムとかになるものが形成される。デモクラシーや労働者階級が思い描かれる。新しい人間像が準備される。新しい支配者たちは名利名声を得ようと、自らの残虐は隠して、正義への熱情、探索の勇敢さ、真理への関心、建造物や音楽に対する夢を並べ立てて語る。そのような「歴史(物語)」が書かれ始める。(13ページ)

ユダヤ人追放と近代合理主義の誕生

私はスペインのユダヤ人追放は、キリスト教ヨーロッパの純潔の脅迫観念がもたらした結果であると同時に、逆に、近代知識人、つまりどっちつかずの、曖昧で表裏のある、冷やかで仮面をつけた、不純で拒否的な人間を出現させたひとつの理由でもあると思う。(384ページ)キリスト教の東方起源の無視できない証人であるユダヤ民族は立ち去り、解体し、姿を消さなければならない。(385ページ)

相次いで取り入れた二つの宗教の板挟みになっているマラーノ(ユダヤ教から改宗した主にスペイン人)は、新しい哲学を探し求める。理神論者であれ合理論者であれ、彼らは近代性の重要な源のひとつとなるであろう。(395ページ)

1492年以前の世界

西洋は当時、西洋が東洋に売る以上に東洋から品物を買っている。だから取引のバランスをとるために、西洋は金や銀を産出しなければならない。ところがヨーロッパには貴金属がほとんどない。・・・かろうじてエジプト経由でアフリカの金が少量届き、13世紀中頃に最初の金貨が表れる。(100ページ)

当時3億の人間が地球上に住んでいた。その半分以上はアジア、およそ1/4がアメリカ大陸で、わずか1/5だけがヨーロッパで生活している。(18ページ)

中国はまだ世界一の権力者であり、アステカおよびインカ帝国、マリおよびソンガイ帝国は素晴らしい繁栄の中にある。(205ページ)

ヨーロッパ的なこと

1492年は、あえて実際に言い表すことはないが、ずっと以前から堂々廻りしている一つの考え、〈進歩〉という考えを具体的なものにするのだ。そこでヨーロッパは〈よりよいもの〉の源泉として自らの価値を認めさせるのだ。(307ページ)

我々は西洋的価値観の中にいる

1492年コロンブスが後のアメリカ大陸(の一部となる所)を発見する。同時にスペインでユダヤ人の追放が行われる。アタリ氏はここに一つの流れを見出す。ヨーロッパからイスラムを追放したものの、1453年のコンスタンティノープル陥落により、ヨーロッパとイスラム圏の交易条件はヨーロッパにとって不利になる。ヨーロッパにとってアジアの前にイスラムが立ちはだかる。だから西から行くアジア航路を切望したのである。

アメリカ大陸を発見したヨーロッパはアステカ帝国インカ帝国を消滅させ、その富をヨーロッパに蓄積した。ヨーロッパのコンセプトは「新しいもの」=「古いものの否定」である。アメリカ大陸だけでなく、アフリカ大陸のマリ帝国・ソンガイ帝国を知らない。ヨーロッパはこれらの歴史を消去してしまい、ヨーロッパというコンセプトに置き換えようとした。

本書の原著タイトルは「歴史の破壊 未来の略奪-キリスト教ヨーロッパの地球支配」である。

蛇足

 1490年日本では、豊臣秀吉が軍事的に統一した。

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