いつか社長になる貴方に贈るスキル、知的精神文化遺産を創る~『経営戦略を問いなおす』三品和広 氏(2006)
三品氏は経営戦略論の研究家、目指すべきは、長期で見た利益を最大化することである。それを実現する戦略はマニュアル化になじまず、突き詰めれば人に宿る。(2006)
社長にしかできないこと
大企業を観察していると、奇妙な対照に気付きます。社員に対して自分も同じサラリーマンと振る舞う社長の傍らで、社員は想像以上に社長の言葉を聞きたがっているのです。考えてみれば、これもわかるような気がします。会社の中で理念を語るとしたら、正統な語り手は社長しかいません。そんな社長に、社員は「死に場」を定めてほしいと願っているのだと思います。もちろん実際に死ぬ訳ではありませんが、何のために身を粉にするのか、社員は崇高な目的を掲げてほしいと願っているように思えてなりません。(210ページ)
知的精神文化遺産
トヨタ自動車は豊田佐吉氏に始まる創業の原点をとても大切にしている会社です。それに続く豊田喜一郎氏の功労や、大野耐一氏の功績も、しっかりと語り継いでいます。なかでもG型織機、「にんべんのついた自動化」(
注)の背後にある理念は、会社の芯と言ってよいでしょう。そんな創業の理念が、人々の「姿勢」を形作っているのだと思います。DNAという表現も耳にしますが、それでは継承の側面しか強調しないので、それを私は知的精神文化遺産と呼ぶことにしています。(212ページ)
注)"自ら働く"こと、不良のチェックができる働く機械
経営幹部のために
最近は40代の幹部社員の前に立つと、自社の成り立ちを研究するよう勧めています。最初は社史を始めとする資料を繙く(ひもとく)ところから始めるしかありません。会社を形作った人の中に入ってこそ本物です。どんな状況に置かれていたのか、何を見ていたのか、何を考えていたのか、想像力逞しく行間を埋めないことには話になりません。(210ページ)
理念の解釈は貴方の仕事
理念は、それに照らすと一部の選択肢が論外になるという意味で、選択の自由を狭めます。それが合意形成に役立つのですが、理念に立ち返って考えたからと言って、自ずと答が一つに決まるとは限りません。(213ページ)
創業経営者と操業経営者
会社をゼロから興す創業経営者、それを引き継ぐ操業経営者。三品氏は操業経営者の方が「会社を創業したわけでもなく、大きな実績があるわけでもない」分だけ大変だと言う。しかし創業経営者もスタートばかりの時点では「会社を創業しはしたが、何の実績もない」点では変りない。重要なことは社長が「死に場」を理念として明確に語ることであり、それによって伝説を作っていくことである。まったくゼロから作る創業者と、創業者の理念を“現状と貴方の方向性に沿って”再解釈して新たな伝説を再定義するか、だけの違いである。
三品氏は将来の経営幹部に対し社史を研究することを勧める。これは三品氏が大学で、大学院で、ビジネススクールで、実践により編み出されたスキルである。再現性のある手法である。
蛇足
いつか貴方のやっていることが伝説となる。
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