勇気を貰う言葉、「必要なのは勇気じゃない、計算である」~『ニコニコ哲学 川上量生の胸のうち』川上量生氏(2014)
ニコニコ動画を育てあげ、KADOKAWA・DWANGOのトップとなった川上量生氏が生き方、働き方の哲学を語りつくす。(2014)
オープンになるほど多様性は減っていく
(加藤貞顕氏)ニコニコ動画のように、ユーザーがいつでも作品を発表できる場ができて、世界はよりクリエイティブになっていくんじゃないか、という説もありますが、、、、。
(川上氏)完全にウソですね。クリエイティブの楽園なんかにはなりません。オープンなマーケットで、みんながコンテンツをつくれるようになるほど、コンテンツの実質的な多様性は減るって言うのが僕の持論です。数が多いということは、ある解に向かって自動的に収束していくってことですからね。
個人が何をつくるもの勝手なんですけど、人気になったり売れたりするものの自由度は減っていきます。アニメの制作会社はたくさんありますが、自由なアニメをつくれる会社ってほとんどないですよね。みんな似たような文脈にそったものしかつくれない。・・・今好きなアニメをつくれるのはスタジオジブリぐらいですよね。ジブリには独自のブランドがあって、ジブリが相手にしているマーケットには、競争相手がいないからです。・・・ジブリみたいな会社は1社しかなくて、ジブリがつくったものが見たいというお客さんがたくさんいるから、作品に多様性が生まれるんです。(114ページ)
ニコニコ動画を始めたとき
ニコ動って、まだある程度法的な解釈が定まっていない領域に、訴えられる可能性もあるのに、あえて踏み込んだと思われていたんですよね。だからサービスを開始したとき、ネットで「こういうサービスが必要だったんだ。俺も勇気を出してやっていれば」「勇気を持って踏み込まないと成功しないんだ」みたいな書き込みがあったんです。いやいや勇気じゃないですよ。そこで何も計算しないで勇気をふるっても、(著作権違反で)捕まるだけですから。(171ページ)
競争とは何か?
参入撤退が自由、かつ過去の実績も問われない、これがオープンな競争であろう。ここではクリエーターの数が多いと逆に多様性が失われるという。各クリエーターが競争のない市場でそれぞれのブランドを築いていくことが必要だという。ここでクリエーターを会社に置き換えてみる。すると同じことが言える。各社が違ったブランドを築いていくことが必要となる。
ニコニコ動画で川上氏が行ったこと
ニコニコ動画をビジネスで見たとき、ここから何が言えるか。動画投稿サイトというまだ誰も手掛けていなかった領域に参入した。その時、彼は投稿サイトで有名な2チャンネルの、ひろゆき氏協力を仰ぎ、弁護士と法的な検討を行ない、既存のコンテンツホルダーに挨拶に行った。ここまで事前に計算し準備を重ねたから競争相手より優位に立てた。そして動画投稿サイトという荒地に最初に入植し、生き残り、成功した。川上氏は「必要なのは、勇気でもなんでもなくて、計算です。」(170ページ)と言う。本書の帯は「競争はしない。金もうけもあきらめる。でも、生き残るためによく考える。」
最初からお金を目当てにすると、既存市場しか目に入らなくなってしまう。必要なのは自分が競争しないで生き残れる「新しい荒地と、そこで何をやるか」を徹底的に考えることだと理解した。
蛇足
勇気の前に考えろ、勇気を貰うセリフである。
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