毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

どうしてシンデレラ・ストーリーは世界中にあったのか?~『グリム童話の世界―ヨーロッパ文化の深層へ (岩波新書)』高橋 義人氏(2006)

グリム童話の世界―ヨーロッパ文化の深層へ (岩波新書)「シンデレラ」「白雪姫」など高橋氏はドイツ文学の研究家、19世紀ドイツのグリム兄弟が編んだメルヘンは、本当は何を語っているのか-。キリスト教が広まる以前の神話・伝承にまで遡り、民衆の習俗や信仰、夢や恐怖に迫る、発見に満ちた案内。(2006)

 

 

シンデレラ物語とは何か?【本書の結論】

農耕民族の神話の中核である「冬追い、夏招き」という観念や、「骨を皮で包む」という狩猟民族時代の神話的風習は、シンデレラ物語のなかに疑いようもなく残っている。(85ページ)

①逆境の時代にシンデレラは「骨を皮で包む」

いぐさにせよ、動物の皮にせよ、それらは植物や動物の象徴である。「シンデレラ」物語の女主人公はいぐさや皮で包むことにより動植物に変身する。そして自然の魔力を身につけ、しかも辛い仕事、汚い仕事をして、庶民の気持ちをよく分かる姫となるのである。(46ページ)

②シンデレラは冬至と共に元の姿に戻る

シンデレラは継母か父親によって逆境に陥る。彼女の苦難の時代はまさに「灰かぶり」の時代である。その苦難の時代を経て、彼女は王子さまに見いだされ、幸せな結末を迎える。苦難の時期から幸福な時期へ。この推移は、冬から夏への移行と合致する。(57ページ)

ヨーロッパのシンデレラ物語の源流

自然界は、人間の知性を超えた魔術的な力によって支配されている。そのように大昔の人々は信じていたし、だからこそ「シンデレラ物語」群のなかで、ハシバミやナツメ、牛や小鳥はほとんど神的な存在として登場する。そこに記されているのは、明らかに大昔の自然信仰である。しかもキリスト教が広まる以前のヨーロッパの人々は、自然と人間のあいだの連続性を信じていたので、彼らは自然の持つ魔力を自分のなかに移入させようとして、植物や動物の皮を身にまとった。そして、そうした風習が、ひとつには「シンデレラ」のようなメルヘンのなかにあるいはヨーロッパのいつくかの地方の祭りとなって、いまだに残されている。(48ページ)

クリスマスは冬至の行事

冬至とクリスマスはほぼ同じ時期に当たるが、聖書にイエス・キリスト冬至に生まれたという記述はない。しかしローマ帝国内でのキリスト教の普及をはかった人々は、帝国内で信仰されたミトラ教(太陽を神と崇める宗教)が12月25日を太陽神の誕生日と考えていたため、イエスの誕生日をそれに合せ、帝国内の住民がキリスト教に転向する上での心理的な抵抗を少しでも軽減させようとした。(49ページ)

世界には700の類話

シンデレラ物語には700の類話が認められる。高橋氏によればその話の多くは植物(ハシバミ、ナツメ)や動物(牛、羊、魚)が主人公を助ける。動物の場合には主人公は動物の毛皮をまとって、動物に変身するという。シンデレラ物語には農耕民族と狩猟民族の記憶が閉じこめられている。著者はヨーロッパ全体がキリスト教化されたのは西暦800年にカール大帝ローマ皇帝に即位した時点であると言う。ヨーロッパのキリスト教の歴史はせいぜい1000年から1700年(ミラノ勅令)しかない。それに比べ、世界のシンデレラ物語の方が、起源が古いのは当然といえる。そしてまたシンデレラ物語の起源をどこか特定の地域・時代に求めるのも意味がない。

蛇足

 

宗教は思ったほど古くない。

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