タロットカードの愚者はなぜ小袋と花を持っているのか?~『「無知」の技法 Not Knowing』S・デスーザ氏×D・レナー氏(2015)
デスーザ氏、レナー氏は企業組織論などのコンサルタント、知識が高いほど、変化や未知のものの受け入れが遅れ、 既知のものへ執着し、盲信する。いわば知のパラドックス(逆説)だ。「知識」「知っていること」に焦点を置くあまり、 疑ったり、「わからない」と認めることができなくなるからだ。(2015)
愚者
タロットカードには「愚者」と呼ばれる1枚が含まれている。たいていの場合、そのカードに描かれているのは、崖の先端で足を踏み出そうとする男の絵だ。小さな袋を持っていて、旅に必要となる能力のすべてがそこに入っている。片手にもった花が象徴するのは美しいものも愛でる心。そして彼の顔は北西を―未知の方法を向いている。
愚者はあらゆる可能性を表している。流動性と柔軟性のイメージだ。愚者は落ち着きがないが、機智に富み、決して一つのところにとどまることはない。性格はあけっぴろげ、正直、そして気まぐれ。自由な精神の持ち主で、あらかじめ決められた道ではなく、流れるままに進んでいく。・・・愚者のカードが主に伝えるのは、「慎重になりすぎるな」というメッセージだ。信じて飛び込み、旅の進むままに身をゆだねろと誘っている。スティーブジョブズが、2005年にスタンフォード大学の卒業生祝辞で「ハングリーであれ。愚かであれ」と行ったのも、そういうことだ。(290ページ)
無知の技法
本書を要約すれば「世界はほぼ常に理解不可能なものと認めるべき」ということになる。情報工学における不完全性定理、物理学における量子力学などの現代科学もまた、世界には確実なものは存在しないということを明確に示唆している。しかしながら我々は既存の知識に執着し、疑うこと、未知のものの存在を否定してしまう。
愚者のカード、スティーブジョブズのメッセージは「未知なものを愉しめ」というメッセージである。それには不確実な世の中であれば、何があっても最後には何とかなるという確信もまた必要である。
蛇足
我々は既に右手に小袋を、左手に花を持っている。
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