毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

部屋と机はあなたの拡張された脳である~『生まれながらのサイボーグ: 心・テクノロジー・知能の未来』アンディ・クラーク氏(2003)

生まれながらのサイボーグ: 心・テクノロジー・知能の未来 (現代哲学への招待 Great Works) 

クラーク氏は認知科学、哲学の研究家、言語の登場以来、人間はサイボーグだった!コンピューターや人工知能スマートフォンタブレット端末、脳や身体に直接埋め込まれ接続されるデバイスなど、テクノロジーと人間の融合を探究し、「心とは何か」「人間とは何か」を問いなおす現代人のための哲学。(原書は2003、翻訳は2015)

ペンと紙

ペンと紙を用いて大きな数の掛け算(24×72)を行うプロセスを考えてみよう。脳は、ペンや紙と共同作業を行うことによって、単純なパターン完成(2×4、2×2、7×4、7×2など)のための能力を最大限に利用すうることを学習する。つまち中間結果を自分の外部に貯蓄し、より大きな問題が解決されるまで単純なパターン完成を繰り返すのだ。・・・わたしたちが世界を現に理解しているような仕方で理解できるのは、生まれながらのサイボーグであり、いつでも自分たちの心的活動を紙やペン、電子機器の操作と融合させる準備ができているからである。(8ページ)

わたしたちは何なのか?

この(アルツハイマー)患者たちは謎だった。彼らは従前通り都会でうまく一人暮らしをしていたが、しかし本当はそんなことができるはずはなかったのだ。標準的な心理テストの結果は散々だった。日常生活で必要なことをこなしていけるはずがなかったのだ。・・・彼らの住まいを何度も訪ねることでその答えがわかった。彼らの家庭環境は、その生物学的脳を支えその足場となるように、素晴らしいまでに調整されていたことが判明したのだ。家の中には認知能力を補助する道具や手段が山ほどあった。例えば、何をいつするべきかという書付を集めたメッセージボード。名前とその人との関係を書き込んだ家族や友人の写真。ドアに貼ったラベルや写真。新しい出来事や人と会う約束、計画を書き込む「記憶帳」。とても重要なアイテム(ポットやフライパン、小切手帳)は常にはっきりと見えるようにして戸棚や引き出しにしまったりしないという「出しっぱなし」戦略などなどだ。・・・わたしたち自身のペンや紙、ノートブック、日記、目覚まし時計はわたしたちの生身の生物学的プロフィールをほぼ同じような方法で補完しているのだ。(225ページ)

自己とは徹底徹尾、道具なのである。わたしたちは、思考のための内的そして外的な「自分自身の」道具の、複雑で変化する複合体にすぎない。(310ページ)

人間は可塑性を持つ                                                              

「人間の心と自己は、その脳の並外れた可塑性によって、非生物学的な回路、道具、環境を自らの一部として取り込んでいくような特性をもつもの」(355ページ訳者解説)

生れながらのサイボーグ

著者は人が生まれながらに身体、道具によって拡張された身体、そして外部環境に適用できるという。それは脳が可塑性を持つからである。可塑性とは脳などの神経系が外界の刺激によって常に機能的、構造的な変化を起こしていること。つまり脳は与えられた環境でどんどん変化していくことができるのである。

本書で著者はアルツハイマー患者の例を出す。十分な認知能力を持たない患者が認知能力を外部環境に埋め込むことで、暮らしている。いわば認知機能が部屋にまで拡張しているのである。

本書は2003年に執筆された。携帯電話を“マインドウェアのアップグレード”キットと例える。10年を経て携帯電話はスマートフォンに変わったが人間が生まれながらのサイボーグであるという点は少しも変わらない。

蛇足

机の上と部屋を片付けよう。

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