毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

我々は生まれながらにして、歪みのない円に美を見る~『中・高生のための現代美術入門 ●▲■の美しさって何? 』本江邦夫氏(2003)

中・高生のための現代美術入門 ●▲■の美しさって何? (平凡社ライブラリー)

本江氏は現代美術史の研究家、二十世紀に誕生した抽象画。●▲■が主役となった絵画がなぜ生まれたのか?(2003)

 

 

 

○△□を描く

抽象画のなかでも、円、三角形、四角形などの図形を中心に画面を構成したものを幾何学的抽象といいます。・・・歴史的にみれば、いつの時代でも円、三角形、四角系などの、いわゆる幾何学的形態が特別な意味をもたされてきたことはたしかです。円はなんといっても、宇宙とか、また宇宙を支配する神の完全性をあらわす形でした・・・。(175ページ)

円を描く

コンパスがあれば、だれでも簡単に円を描けます。たとえば、半径10センチメートルの縁を描いてみることにしましょう。ところで、円周は何センチメートルですか。・・・円周率というのはほんとうはいくつですか。3.141592535888889793・・・・と永遠につづく数でしたね。・・・そういうわけで、ほんとうは円周はきちんとした長さをもってはいないのです。・・・それはあたかも、πならπというものが、どこか別のところになって、そこから地上に影をおとしているようなものです。地上でわたしたちが観ているものはあくまでも影、あえていえばほんものの、不完全なコピーにすぎないのです。しかし、この不完全なものからわたしたちは、その源となる、どこかはるかなる世界を夢みることができます。

円は“ほんもの”をあらわす

古代ギリシャの大哲学者プラトンは、ここでいう“ほんもの”を「イデア」とよんでいました。・・・なぜわたしたちが円、三角形、四角形などの図形、幾何学的形態に気持ちがひきつけられるかといえば、それはそこに、ほんとんど無意識のうちに、あのはるかなるイデア界を感じているのにほかならないからなのです。(178ページ)

なぜ幾何学的抽象を描くのか

幾何学的抽象のなかにはつねに、宗教的ともいうべき、ある神秘的な感覚があったことを思い出してください。・・・わたしたちはもっとも崇高な絵画、つまり幾何学的抽象にひきつけられるのではないでしょうか。(179pページ)

○△□のもつ意味

本書では○△□の持つ崇高さ“イデア”という表現で説明した。言語学者のチョムスキーは人間が生まれながらにして普遍文法を持つと言った。我々はアプリオリに数を数えることができる。認知科学の分野でも人は自然界の中から○△□を見分ける能力があると言われている。それを何と呼ぶかは別として、我々は○△□にアプリオリに崇高なものと考える癖があるのであろう。 本書で大江氏は美術は学ばなければならない、と言う。美術史とその背景となる社会を理解したとき絵画の持つ意味がより明確になると主張する。幾何学的抽象は人類の絵画の歴史の一部を担う重要な役割を果たしていた。

蛇足

歪みのない円をアプリオリに美しいと感じる

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