毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

成長する組織とは階層性を作っていくこと~『性と進化の秘密 思考する細胞たち 』団まりな(2010)

性と進化の秘密 思考する細胞たち (角川ソフィア文庫)

団まりな(1940-2014)は発生生物学の研究家、今から38億年前、偶然によってたった一つの細胞が地球上に誕生する。この細胞が人間のような複雑な生物へ進化した生命の仕組とは。(2010) 

階層性とは

 ある単純で、小さな単位が集まって、より大きく複雑な単位を作り出す、というのは自然界の物質の一般的な性質なのです。…一般に、より単純な「下位の単位」が集まって「上位の単位」を作ったとはっきりというためには、新しく生まれた「上位の単位」が、それを作った「下位の単位」にはなかったより高度な機能・作用をそなえていなければなりません。(30ページ)

ハプロイド細胞:染色体を1n(1セット)もった細胞のこと。無限に細胞分裂が可能。 ディプロイド細胞:ハプロイド細胞が集まって生じる細胞。染色体を2n(2セット)もった細胞は細胞同士が協同する高い能力を持つが、細胞分裂に限りがある。

人間の階層性

二匹のハプロイド細胞、“卵と精子の接合(=受精)によって生まれた私たちのディプロイド細胞、“受精卵”は、またたく間に分裂を開始し、数日後には“多細胞性の小動物”となって、母親の子宮壁に潜り込みます。そこで次々と身体の複雑さをつけ加え、十か月後には巨大な“赤ん坊”という動物として外界に出てきます。その後も母親や家族に寄生して“幼児”として成長し、さらに学校や社会にオンブする“子供”の時代を過ごし、ようやく20年もの年月をかけて一人前の“人間”になるのです。ここで用いた“ ”の状態は、全て複雑さの違う段階を示していると考えられます。“小動物”までの3つの段階は身体構造の階層の何らかの単位を示し、“赤ん坊”からの4つの段階は脳の複雑さの違う単位を示していると思われます。(107ページ)

有性生殖

N本の染色体をもった細胞が二匹で合体し、いったん2n本のDNAを混合して、またもとのn本をもった細胞に戻るというシナリオは、まさに有性生殖そのものです。(35ページ)

生物が、自分の『種』としてのアイデンティティを保ったまま、ディプロイドとハプロイドという二つの階層を行き来して、ディプロイド細胞が運命づけられている。分裂の限界を克服するためのしくみ(である)(45ページ)

生命の単位は細胞である

生物のあらゆる営みは、細胞がやっているのであって、遺伝プログラムがやっているのではありません。遺伝プログラムは確かにありますが、それを担っていると考えられるDNAの上には、たんぱく質に関する情報が書かれているだけです。実際の化学的イベントは、DNAがやるわけではなく、DNA上の情報に基づいて現実に合成されるたんぱく質が、特定の種類、特定の数だけ集まって行うのです。…私は、遺伝の基本はDNAの複製ではなく、細胞分裂だと考えています。そして遺伝プログラムは、DNAにではなく、細胞質、または細胞構造そのものに書き込まれているのだろうと思います。(161ページ)

生命の基本はハプロイド細胞

 

人間は精子卵子という二つのハプロイド細胞が合体して成長していく。二つが合体した細胞はディプロイド細胞であるが、重要な点はDNAだけでなく精子卵子という細胞としての情報も遺伝されている点である。それぞれの細胞の構造自体に人間のアイデンティティが書き込まれているのである。ディプロイド細胞は二つが合体したことにより多様性は確保されるが一方バグが生じる。だからディプロイド細胞は一定の細胞分裂を行うとハプロイド細胞に戻って、つまり卵子精子になってバグを修正する。細胞の本質は単独に活きる卵子精子と言い換えることもできる。

成長とは階層化が進むこと

団まりな、は多細胞生物が細胞を単位として階層性を有していると説明する。階層性とはある量が蓄積されると自然と上位概念が生まれることをいう。上位概念は下位概念より、より高度で下位概念にはできないことを下位概念に依存することなく実現する。

どうして多細胞生物が大きくなり、繁栄しているか?卵子精子単独はシンプルな構造そのもの、それが受精すすることで階層性を確立し、分業体制による活動範囲の拡大を可能とする。成長する組織、生物であれ社会的な組織であれ、成長には共通点がある。成長とは階層化が進むことである。

蛇足

組織に寿命があるのはバグを後世に伝えないため。

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