毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

大企業はいつ出現し、どうして大企業になったのか?~『アメリカ経営史』ADチャンドラー (1986)

 

チャンドラーアメリカ経営史

 

ADチャンドラー(1918-2007)アメリカの歴史学者、米国大企業発展の歴史が専門。(1986)

f:id:kocho-3:20150826061602p:plain

 

そもそもいつ大企業は生まれたのか、なぜ大きくなったのか?

 

大企業は1880年に突如として出現

大規模な近代産業企業の独特の特徴とは、大量生産と大量流通を統合しているということである。このような大規模な統合企業は1880年代に突如として合衆国にあらわれた。・・・原材料の供給者から生産工程を通し、小売業者や最終的な消費者に至る物質の流れを調整する管理網をつくりだす企業の形成を導いたのである。(81ページ)

市場の見えざる手から大企業による集中統合へ

 

1840年代までは、これらのますます専門分化する事業単位の活動の調整は市場の「見えざる手」、すなわち需要と供給の力に主としてまかされていた。

1840年以降の数十年間は、拡大する市場よりも技術の方が企業の発展にとってはより重要な役割を果たした。・・・新しい技術は輸送、販売、生産、金融の過程を根本的に変えてしまった。・・・制度上の分業よりも制度上の統合が企業の発展の中心となった。生産と流通のすべての過程の中間にある事業単位を集中的に統合することによって、各事業単位内の高価で新しい資本装備を継続的に使えるようになった。(133ページ)

新技術(輸送と通信)が鍵

輸送と通信が高速大量化するにつれて、新しいタイプの企業―つまり大量生産者―が何世紀もの間、商品流通に携わっていた商人にとって代わった。新しい大量生産者たちは、これまで以上に高速大量な商品流通を可能にした、彼らは、製造所や加工者から小売店へ、また、規模的には小さいが、原材料の供給者から製造者へという物質の直接的な流れを調整する管理ネットワークをつくりだすことにより、それを可能にしたのである。・・・大量生産と大量流通の過程がひとつの企業内に統合されるようになった。そのような企業が管理ネットワークを設けて原材料供給者から生産過程を通り小売業者や最終的な消費者へと流れる物質の流通を調整したのである。(134ページ)

1910年代のフォードシステム、輸送と通信、そしてエネルギー

 

(ヘンリーフォードは)原材料の移動に動力を使用するという良く知られている革新的な技術開発に携わっていた。・・・1913年までに、彼らは移動式組立ラインを完成させた。この新しい生産工程は1台当たりに必要な労働時間を縮め、1913年の初めには12時間8分だったのが1914年春には1時間33分になった。

どうして大企業が生まれたのか?

 

我々は常識として選択と集中、による分業のメリットがあると理解をしている。それではそれに反しているように見える大企業はどうして存在しえるのか?

製造業でいうと産業の上流(原材料)から下流(流通)まで、それぞれの過程で分化した専門企業が存在した。上流から下流まで市場メカニズムによって調整されていた。これを1社に垂直統合したのが大企業である。大企業は通信と輸送、そしてエネルギーをこの過程に取り込むことで市場メカニズムによる「神の見えざる手」を上回る効率性を実現していた。大量生産、大量消費で大雑把に捉える前に、大量生産、大量消費を可能とした通信と輸送、そしてエネルギーなどの新技術の存在を認識すべきであろう。産業の上流から下流までを効率的に統合していたのである。

本書は1980年代半ばに出版された。その後大企業は選択と集中の時代を迎える。情報通信技術の更なる発達は市場メカニズムの復権をもたらしたとも言える。あるいは垂直統合モデルの更なる分化とも言える。

企業自体も集中と分散のサイクルをくり返している。

蛇足

チャンドラーはシュンペンターの弟子

こちらもどうぞ

 

kocho-3.hatenablog.com