毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

ヒトは生物として成熟するのにどうして長い年月をかけるのか?~『生物に学ぶイノベーションー進化「38億年の超技術』

生物に学ぶイノベーション―進化38億年の超技術 (NHK出版新書 440)

 赤池氏は科学技術ジャーナリスト、生物進化の不思議を読み解きながら、「新発想のヒント」を記す。(2014)

 
どうして有死の有性生殖を選択したか?

 

 

自ら増殖することが可能なだけで、死ぬことを知らない「不死の人工生命」と、自ら増殖できるだけでなく、死んで自己解体することも可能な「有死の人工生命」を設計した、そしてこの両者を、広さが無限で、どこをとっても物質と温度が均質い分布している架空の生態系の中で競わせたところ、予想どおり、不死の時効生命の方が圧倒的な優勢をしめした。

 

 

広さが有限で、場所によって物質と温度が不均質な地球型生態系を設計し、同様の実験を行ったところ、逆の結果が示された。つまり有死の人工生命が不死の人工生命を凌駕したのだ。

 

 

死ぬことで自己解体を行う有死の人工生命は、生態系に還元された物質を活用して、子孫を繰り返し誕生させることができる。そのため、不死の人工生命よりも突然変異がより高い頻度で発生する。その結果、より環境に適応できる進化した個体が選抜されていき、不死の人工生命より繁栄することになるのである。(31ページ)

 

海に棲む動物の生殖方法

 

 

 

(海に棲む動物の多くたちにとって)生殖の役割は卵を産み捨てた時点で終了し、その後の卵の運命にはお構いなしだ。・・・豊穣の海という恵まれた環境があって初めて、「下手な鉄砲、数撃ちゃ当たる」でやり過ごしていけるのである。こうした出産方法は、まさに20世紀のフォードシステムに象徴される大量生産システムに通じるものである。安定した市場環境と購買吸収力がある時代にのみ、通用する方法なのだ。(201ページ)

 

究極の生殖方法~晩成型

 

トラやライオンなどの肉食獣、そしてサルや私たちヒトは、妊娠期間が短縮された代わりに、子どもは眼も見えず、歩行もできない状態で生まれてくる。この仲間は、とりあえず未熟のまま産んで、その後じっくり育ててやろうと考えたのである。小さく、一つずつ、リスクなく、自分たちで育てることの可能な生産システム。これこそが、正にリエンジニアリングのお手本である。生物は長い年月や試行錯誤を経て、こうした出産方法へとたどり着いたというわけだ。・・・ここ最近、最先端技術関連の展示会に行くと、完成した商品ではなく未完成のシステムやコンセプト技術のみを展示・解説するブースが目立っている。そこでクライアントとの要望のすり合わせが行われ、初めて商品化するというアクションが起こされる。つまり、限られた素材やラインで、ベースとなる未完成品をつくっておき、集団や社会の中で、よりよいものへと仕上げていくのだ。(207ページ)

 

サケの遡上

 

本書でカナダのサケの遡上の例を取り上げる。サケは生まれた川を遡上し産卵する。同時に熊の恰好の餌となり、また死骸は植物の栄養となる。サケはこの「死による自己解体→生態系に還元→還元された物質を活用して子孫を誕生」サイクルを実感させてくれる。

生物としてのヒト

 

ヒトは生物として成熟するのに15年以上かかる。この15年間に十分の栄養と教育・訓練の機会を与えられるからこそ完成する。生物として人は成功していることは晩成型には大きなメリットがあることを示している。ヒトは生命が培ってきた有性生殖の歴史の延長線上に立っていると実感する。

蛇足

 大きなことには過去の遺産が必要

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