遺伝子がこころに影響を与える、同時に、こころが遺伝子を制御している~『「こころ」は遺伝子でどこまで決まるか』宮川剛氏2011年
「こころ」は遺伝子でどこまで決まるのか―パーソナルゲノム時代の脳科学 (NHK出版新書)心理学出身の宮川氏は、「ひとのこころはどこからくるのか」という壮大な問いに、遺伝子改変マウスを用いた行動様式の研究というアプローチで挑む科学者。2011年刊
ノックアウトマウスの行動観察を行う
特定の遺伝子を働かないようにしたノックアウトマウスで行動にどのように影響しているかを調べ、以下の結果を得る。
- 特定遺伝子が働かない様にしたマウスの迷路で餌を探す行動などを観察
- 行動への影響は人間で言う所の「こころの病」と似た症状であった。
- 具体的には行動のムラ、記憶傷害、不安様行動(ストレス)などを生じた
8の字の迷路でマウスの行動を観察
宮川氏の仮説
ゲノムの上に存在する遺伝子の多くは脳でも何か重要な役割を果たしていて、私たちの心に何らかの影響を与えているのではないか?(63ページ)
脳の海馬細胞の歯状回に影響
その時点にだけ有効な記憶を作業記憶といい、「こころの病」といわれる症状を起こすマウスはこの作業記憶と関係する海馬細胞の歯状回に異変が生じているという。具体的には「こころの病」を発症した遺伝子改変マウスの遺伝子が歯状回に大きな影響を与えている事を実験によって確かめた。
歯状回は、大人の脳で神経新生が起こる数少ない場所のひとつということなのです。作業記憶の顕著な傷害を示すaCaMKⅡの欠損マウスで、海馬の歯状回で特異的に発現している遺伝子の発現量が軒並み顕著にお低下している。(106ページ)
ノックアウトマウスの80%は脳に影響を与えていた
私たちの研究チームがこれまでに調べた120系統以上の遺伝子改変マウスのうち、なんと100以上の系統で何らかの異常が確認されています、すべての遺伝子の80%は脳で発現しており、そのうちの多くの遺伝子は、こころや行動の特性に何らかの影響を与えているかもしれない。次々と作成される遺伝子改変マウスの行動と脳を調べることにより、こころのはたらきのメカニズムや、精神疾患・発達傷害などのこころの病が発症する原因がわかるようになるだろうと考えられます。(127ページ)
遺伝子は一生変わらない
遺伝子は生まれてから一生変わらない。ノックアウトマウスから判った事は遺伝子の80%は脳の活動に影響を与えていた。人間の「こころ」といわれる脳の活動は遺伝子の影響を受ける事になる。「こころ」は遺伝をするのか?極めてセンシティブな内容である。宮川氏は「環境より遺伝子」、「遺伝子より環境」ではなく、「遺伝子も環境も」であると表現する。遺伝子の多くは休眠状態、環境によりスイッチが入り、その相互作用により様々な行動に影響を与える。「こころ」が遺伝子をどこまで変えられるか?とも言える。マウスの遺伝子と脳機能の研究・実験によってメカニズムが説き明かされつつある。
蛇足
選択した環境が遺伝子の働きをコントロールする
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