毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

イノベーションの本質は少ない人間で済ませる事、米国の農業と製造業はそれを教えてくれる。~『年収は「住むところ」で決まる』(2014)

年収は「住むところ」で決まる 雇用とイノベーションの都市経済学

モレッティ氏は地域経済学の研究家、米国でもイノベーションは「まだら模様」、地域によって差があると言う。2014年刊

 

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アメリカの製造業

 

 

アメリカの製造業興隆の原動力になったのは、労働生産性の飛躍的高まりである。マネジメント手法が改善され、近代的な機械を導入するための膨大に投資も行われた結果、1975年のアメリカの工場労働者の生産性は、1964年の2倍に上昇した。そうした生産性の向上は、二つの面でアメリカの繁栄を後押しした。第一は、賃金の目ざましい上昇をもたらしたことだ。第二は製造工程が効率化し、物の値段が下がった事だ。物の値段の下落と賃金の上昇が同時平行で進んだ結果、アメリカ社会の文化的・経済的構造が根本から変わった。(33ページ)

 

製造業の前は農業

 

 

アメリカ経済は、農業中心の産業構造を脱して工業化を遂げたときにこのパターンを経験している。150年前、アメリカの労働者のおよそ半分は農業関係の仕事に就いていたが、現在は1%でしかない。・・・一方技術の進歩(トラクターや農薬の導入、作物の品種改良など)のおかげで農業生産は大幅に増え、農作業の価格は格段に安くなった。20世紀を通じて農業の生産性が高まった結果、農業地帯の所得水準は上昇したが、農業分野の労働力需要が減ったため、多くの農民が都会に移り住み、工場で働くようになったのである。(54ページ)

 

生産人員一人で何台の自動車を生産できるか?

 

本書によれば米国GMは1950年代には従業員1名で年間7台、1990年代には13台、現在は28台を生産している。同じ生産量にかかる人員は1/4に減った。内製化比率などを無視し乱暴に言えば、「農業と同じ様に」自動車製造業の雇用者数は今後も増えないという事。(なおトヨタは1975年には既に30台に達していた)

年収は「住むところ」で決まる

 

 

アメリカが高い生産性を誇り、豊かな国でいられるのは、イノベーション産業が全米の様々な都市に散らばっておらず、一握りのイノベーションハブに集中しているからなのだ。(192ページ)

 

イノベーションハブに住めば高い年収を享受でき、イノベーションハブはイノベーションを成功させた企業が存在するからイノベーションハブなのだと言う。イノベーションが正しいという価値観に立てば、全米で地域間格差が顕著なのはイノベーションを志向しない人がいるという事である。

農業も製造業もイノベーションを実現していた

 

農業と製造業に郷愁を憶えるのは米国も日本も一緒だと気づく。農業と製造業に郷愁を憶えるのは過去の輝かしい経験と自らの幼い記憶がリンクするからなのであろう。イノベーションとは何か?新しいテクノロジーを利用してやり方を変える事。我々は農業と製造業が生産プロセスを変化させる事を受け入れた事を認識する必要がある。製造業が別のイノベーションを組み込まない限り、雇用は増えない。

蛇足

 

次に郷愁を憶えるイノベーションはどこで生まれているか?

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