毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

細胞という概念が生まれたのはいつか?~『細胞発見物語―その驚くべき構造の解明からiPS細胞まで 』

細胞発見物語―その驚くべき構造の解明からiPS細胞まで (ブルーバックス)

山科氏は細胞学の研究家、私たちの体を形作る60兆個の細胞、発見の歴史をたどる。(2009)

細胞学説はいつ生まれたのか?

細胞は生命活動を営む最小の単位で、細胞の集積によってあらゆる生命体ができあがっている。これが「細胞学説」の意味することだ。…「細胞学説」は生物体の対する我々の基本的な認識であるばかりか、今日の医学の根幹になっている学説である。細胞学説は、シュライデンが1838年に植物細胞で、テオドール・シュワンが1839年に動物細胞でそれぞれ別個に提唱した。(25ページ)

振り返ってみると(それ以前に)細胞を目のあたりにした人はたくさんいるのだが、それが基本単位となって生物が出来上がっているという意味づけをしたのは、シュライデンとシュワンの二人ということになり、彼らが“細胞の意味づけ”の発見者ということになる。しかし、多くの観察が積み上げられた結果、そうした見解にたどり着いたと考えるほうが適当なのであろう。(26ページ)

最初に細胞を見たのは誰か?

1665年イギリスの物理学者フックはコルクの薄い断面を顕微鏡で観察し、小部屋にCellという言葉を当てた。しかし彼が見ていたのは植物の細胞が抜け落ちた、細胞壁の痕跡であった。同じころオランダのレウエンフックは顕微鏡のレンズの精度を上げることに成功し、セ赤血球や細菌などの単細胞を観察した。しかし実際に細胞が生命活動の基本単位という認識に至るには170年以上の歳月が必要だった。

細胞学から細胞生物学へ

電子顕微鏡が果たした最大の功績は何か」と問われるなら、著者は、細胞が膜によって作られているという認識を生み出したことだと考えている。そしてこの膜なるものの認識を基盤にして、細胞に関する理解が大きく拡大され、細胞生物学という新しい学問領域が創出したといっても一向に過言ではない。(48ページ)

電子顕微鏡は細胞学が誕生してから100年後の1939年に登場

細胞の内容物を外界から仕切る何らかの隔壁構造、つまり細胞膜が存在するだろうということは、さまざまな状況証拠によって信奉されてきた。(49ページ)

細胞生物学の次の課題

細胞の個性が生まれる要因は何であろうか。ひとつは、生まれたての若い細胞と加齢した細胞という差異があるであろう。それよりももっと重要な要素として、生息する部域に応じた微細な環境があって、それとの相互作用で細胞の個性が規定されてくる可能性を挙げることができる。(213ページ)

細胞をめぐるパラダイム

 

細胞のパラダイムは100~200年単位の観察の積み重ねによって変遷してきた。細胞を観察し、細胞の概念が整理され、実際に電子顕微鏡によって細胞膜の存在が明確化することで細胞の仕組みに対する理解が進んだ。そして人類は細胞が構成される論理に挑戦しつつある。

細胞という概念が当たり前の我々にとっては細胞という概念がなかった時代を創造できない。とすると次のパラダイムもまた想像すらできないものになる。

蛇足

 

“細胞”という日本語が生まれたのは1835年

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