毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

そもそも領土という概念とはどういうものなのか?~『戦争の条件』藤原 帰一氏(2013)

戦争の条件 (集英社新書)

 藤原氏は国際政治の研究者、君主の世襲による国境が正当性を失ったあとのヨーロッパにおいて、国土の領有はどのように正当化されるのか。(108ページより)

(2013)

 

各国政府の合意による領土~ロジック①

 

各国政府の合意によって支えられる国境という、国際法における領土概念の成立と拡大である。・・・国際合意による国境合意による国境策定という観念は、それまでの慣行から伝統的な政治権力の正当性を取り除いたものとして見ることができるだろう。その背後には、君主であれ議会であれ、国家主権の担い手が誰であっても主権をお互いに認めることで国際政治の空間がつくられ維持されるという観念を認めることができる。(108ページ)

国民概念による領土~ロジック②

 

フランス革命専制君主を打倒する自由主義の革命であるとともに、フランス国民を基礎とする政治社会を構築するナショナリズムの革命でもあった。・・・「国民」を専制権力に対峙する自由な市民の共同体として見るのか、それとも言語や風俗を共有する「民族」と重なる共同体として見るのかという問題が孕んでいる。・・・「民族」と「国民」が重なるのであればその分布によって政治共同体の境界が定められる。(109ページ)

日本はロジック①とロジック②のどちらを語っているのか?

 

いま、日本では、尖閣諸島竹島も「日本固有の領土」であることは疑うことのできない「事実」であり、国家間における合意としての国境ではなく、国民国家の歴史と重なり合った国境が語られている。国民国家の論理が国際法の論理よりも優越的に受け入れられているといっていい。(119ページ)

国際問題に正解はあるのか?

 

文化や価値の異なる社会の間で展開するために、国際政治では、答えが一つに定まらないのがむしろ普通のことだ。(9ページ)

国際問題について行われる論議の多くは、白い鳥を集めて鳥は白いと言う人と、黒い鳥を集めて鳥は黒いという人との間の争いに過ぎなかった。・・・国際関係に関するすっきりしたわかりやすい論議があることは事実だが、だからといってそれらの議論が正しいとは限らない。むしろ、それぞれにはもっともらしく聞こえる論議が競合し、せめぎ合うのが国際関係という空間だと私は考えてきたからだ。(187ページ)

領土の概念はどちらのロジックが“正しい”のか?

 

領土という概念は各国政府の合意というロジック①と、国民概念に基づくロジック②の二つの概念が存在するという。現在の日本は「日本固有の領土」という表現でロジック②を取っていることになる。ここで藤原氏は「日本が国際法に沿って領土と領海を主張するために有利な立場を確保」のだから、国際法に基づくロジック①を優先すべきであると説く。ロジック①とロジック②、日本の立場だけから見てもどちらが正しいとは決定できないことに気付かされる。更にこれに相手国のロジックが加われば、わかりやすい論議が正しいとはますます言えなくなってしまう。

まずは領土という概念がグローバルに見て、極めて脆弱なものだと認識することであろう。

蛇足

 

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