毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

王には、国境も国土も国民もない~『紀末・戦争の構造―国際法知らずの日本人へ 』小室 直樹 氏(1997)

世紀末・戦争の構造―国際法知らずの日本人へ (徳間文庫―教養シリーズ)

小室直樹( 1932 - 2010、経済学者、評論家。 国家ができる前に、ヨーロッパは既に存在していた。このキリスト教共同体からいかにして、国家、資本主義、近代法、戦争が生まれたか。(1997)

王には、国境も国土も国民もない

封臣(家来)は封主(主君)に対して、無制限に全人格的忠義義務を負う者ではない。この点、日本の封建制とは違う。主従関係は、契約で成立するのであるから、一人の封臣は、それぞれの契約が矛盾しなければ、複数の封主から封土を与えられることが可能である。(95ページ)

複数の王から封土(領土)を貰っている諸侯は、領界地域(のちの国境ができるあたり)に多い、ゆえに国境は確定できないのであった。国境が確定しないのであるから、領土も確定しない。中世の王国(relm)に領土はなかったのである。・・・中世ヨーロッパの人には、国民意識はなかった。自分は何国民であるかということに関心はなかった。・・・学校で教えられるのは、ラテン語だけであった。知識階級や上流階級(の一部)は、ラテン語で交流していた。身分はあった。階級もあった。王と諸侯と騎士はいた。都市もあった。中世末期には議会もできた。しかしまだ、国家はなかった。(98ページ)

絶対的主権の確立

王様の特権は大きいから大権(preogative)といったが、大権も特権の一種であって、大権をもってしても各貴族の特権を否定することはできなかった。しかし、その大権が次第に他の特権と比べようもなく大きくなっていく。なぜ大きくなったかというと、一つは大都市で商業や工業が発達して、その商工階級と王様が結託した。・・・王様は(商人・工業主の依頼で盗賊などから)守ってやるかわりに「金をよこせ」と言って献金させる。あるいは借金をする。で、その金を何に使ったかというと、専門の兵隊を雇って訓練した。プロの兵隊を組織した。正規の常備軍である。・・。正規の常備軍というのは、それぐらい戦争に強い。だから、そうした常備軍を抱えた王様の権力は、どんどん大きくなっていった。・・・そして、王様がだんだんと強くなって行き着いたはてに、「主権(soverainete)」という概念が生じてくるのである。・・・大権が強大化して主権が確立されると、どんな大諸侯でも偉い僧侶でも、大金持ちの商人でも、王の命令には絶対服従しなければならない。(104ページ)

近代国家の特徴

近代国家のいちばん大きな特徴は、税金を徴収できることにある。・・・王権が絶対化するにつれて全領民に税金を課すようになる。(105ページ)

国境とはなにか?

 

中世の王様には「国境も国土も国民もない」。現在の感覚で言えば大企業の様なものだったのかもしれない。そこでは社員もビジネスもある意味出入り自由だし、M&Aも行われる。

近代国家における国境を課税権の境界線だと見てみる。そうなると国境をめぐる紛争はどちらが課税をするか、の争いにも見えてくる。

その後、近代国家は国民と領土と常備軍を備えた民族国家となる。民族国家同士の契約は近代国際法と呼ばれる。最初の国際法であるウェストファリア条約(1648)締結当時、民族国家はイギリスとフランスしか存在していなかった。

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