毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

共同体が解体された時、社会はどうなるのか?~『シャルリとは誰か? 人種差別と没落する西欧』E・トッド氏(2016)

シャルリとは誰か? 人種差別と没落する西欧 (文春新書)

 トッド氏は歴史人口学者、2015年1月パリで起きた『シャルリ・エブド』襲撃事件自体ではなく、事件後に行なわれた大規模デモの方です。「表現の自由」を掲げた「私はシャルリ」デモは、実は自己欺瞞的で無意識に排外主義的であることを統計や地図を駆使して証明しています

 

フランスを構成する“善良なる”中産階級

 

西洋のどの国の社会にも、高学歴者たちと高齢者たちから成る支配的な階層、すなわちグローバリゼーションから利益を引き出す中産階級が存在して、社会の周縁に追いやられている人びと、すなわちその国の労働者たちや移民2世たちに対し、いざ(自分達の利益にマイナスが出るのであれば)となればいつでも自分たちの特権を、とりわけ、自分たちは何も悪くないという意識を護る構えでいます。(11ページ)

カソリックの消滅

フランスは、30年、40年前にはカトリック教会がなお重きを成す国だったが、今では、国民の侵攻と暮らしぶりから見て懐疑論者たちの国になっている。・・・(数十年前には)33%だった(カトリックの)実践者の比率が6%にまで激減した事実は軽視できない。・・・フランスでは無信仰が一気に一般化し、風俗・風習が自由化した結果、変容しつつある国民が心理的・政治的バランスの問題に直面している。(48ページ)

ユーロという通貨の持つ意味

単一通貨の採用は・・・唯一神への信仰の放棄に続いたものだった。一つの経済的プロジェクトへの賛同を決定したのは宗教ではなく、宗教の退潮であった。退潮いちじるしく、消失していく宗教の代替物としてのひとつのイデオロギーが求められたのだった。そのイデオロギーとはこの場合、ひとつの偶像的通貨の創出であって、分析のこの段階でわれわれはその偶像のことをユーロと呼んでも、金の仔牛と呼んでもたいして変わりはない。(74ページ)

日本版への序文から~宗教的空白+格差の拡大=外国人恐怖症

(日本では)等式の左辺は完璧に再現されます。日本の宗教的空白は、ヨーロッパのそれと同じくらいに徹底した空白です。・・・日本における格差の拡大は著しい現象です。日本はもはや、国際比較の統計表の中でスカンジナビア諸国と並ぶ平等の極の一つではありません。まだアングロサクソンの国々の格差のレベルに達してはいませんが、そのレベルには達してはいませんが、そのレベルに近づいてきています。宗教的空白および格差の拡大(等辺の左辺)を見れば、日本はまさに西洋の国です。(8ページ)

シャルリがやったことは何だったのか?

差別されている弱者グループの宗教の中心的人物であるムハンマドを毎度繰り返して冒涜することは、裁判所が何と言おうと、宗教的・民族的・人種的憎悪の教唆と見做さなければなるまい。(28ページ)

人種差別と没落する西欧

 

f:id:kocho-3:20160217103321p:plainJe suis Charlie - Wikipedia

雑誌シャルリは風刺漫画でイスラム教のシンボルであるムハンマドへの冒涜を続けた。その背景には、宗教的空白と格差拡大があると言う。フランスの中産階級は通貨統合による格差社会で利益を得ながらもその既得権益を失うかもしれないという不安を感じている。シャルリはその不安に迎合する形で、漠然とした不安を持つ読者に、弱者としてのイスラム教徒への恐怖感を迎合、焚き付けたのである。弱者としてのイスラム教徒がテロを起こした時、フランスの“善良なる“中産階級は雑誌シャルリへの批判を横に置いたままだった。

トッドはここに人種差別の台頭と、社会の分裂による西欧の没落の兆候を見る。

トッドは日本もフランスと同じ「宗教的空白+格差の拡大」の状況にあると指摘をする。我々の社会にも同じメカニズムが既に内包されていることになる。日本はフランスに比べ民族的、宗教的多様性が少ないから、外国人恐怖症が相対的に顕在化していないだけなのかもしれない。

2015年1月の雑誌シャルリへのテロ、そして2015年11月の無差別テロ、の二つは日本もまた同じ西洋社会にいて、同じ危機を内包していることを考えさせる。宗教を含め共同体が壊れるときどうやって社会的安定を構築するか、課題である。

蛇足

トッド氏はフランスにイスラム教と折り合いをつけることを提案

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