毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

ポツダム宣言受諾後、日本ではどうして抵抗運動が発生しなかったか?~『悪の引用句辞典 - マキアヴェリ、シェイクスピア、吉本隆明かく語りき』鹿島 茂氏(2013)

悪の引用句辞典 - マキアヴェリ、シェイクスピア、吉本隆明かく語りき (中公新書)

 

鹿島氏はフランス文学の研究家、マキアヴェリシェイクスピアタレーラン夏目漱石吉本隆明ら69人、71の名句・名言を紹介。あわせて、近年の時事的な話題を切り口に、引用句を生かして社会の深層と人間の本性を見抜くコツを伝授する。(2007-2013の毎日新聞の連載を再構成、2013) 

マキュアベリの君主論

フランスの(ような権力分散型の)国を征服するのはある面ではやさしいが、維持する段階では、大きな困難がつきまとう。(君主論、マキュヴェリ)

二つの君主制

マキュアベリによれば同じ君主制といってもまったく本質を異にする二種類の政体があるという。トルコ型の絶対君主制と、フランス型の封建王政である。(これはもちろん、15世紀当時に状況)

前者は、たった一人の君主(スルタン)で治められており、ほかは全員が公僕である。スルタンの権力は絶対的で、その地位を脅かすような勢力はほとんど存在しない。そのため、このタイプの国を侵略しようと思ったら、敵は一致団結して立ち向かってくるものと覚悟しなければならない。また、内紛も期待できないので、侵略コストは非常に高くつく。だが、こうした一君万民型の国は、「制服するには大きな困難を伴うが、制服してしまえば、国の保持がいたって楽だと知れよう。」(マキュアベリ)

神国、日本

天皇を絶対君主として戴いていた神国日本は、アメリカの物量攻勢を前にして想像を絶するような抵抗を示したが、天皇の「御聖断」が下り、ポツダム宣言を受託してからは、まったくといっていいほど抵抗を示さなかった。ゲリラ戦は一切おこらず、連合軍は予想をはるかに超えた容易さで占領統治を行うことができた。(61ページ)

日本とイラク

 

鹿島氏は戦前の日本とサダム・フセインイラクを比較する。日本が絶対君主制であったのに対し、イラクは権力が分散していたという。イラクシーア派とスンニ派、反米と親米、などに分散しており、フセインは権力の均衡の上に暴力的独裁制を敷いていた。米軍がフセインを排除しても、イラクは統治できない。米軍はイラクから撤退することになった。

権力分散型の社会は対外的に強い排他性を有しているのである。イスラム圏の国々は、近代になって欧米によって国境が定められ、多くの部族を抱え、宗教的多様性を持つなど、イラクと同様の構造をしている。

鹿島氏は名句から時事に繋げて解説する。時事を構造的に知る手がかりを与えてくれる。

蛇足

 現在の日本は権力分散型と言えるのであろうか?

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