毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

デパートはいつ生まれたか? そしてそれは何を産んだか?~消費による資本主義の拡大

 デパートを発明した夫婦 (講談社現代新書)本書は1991年の発刊

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フランスのボン・マルシェ百貨店

世界最初の百貨店と言われている。現在の店舗は1869年完成、その後1887年パリのオペラ座をモデルに改装され現在に至る。1984年、LVMHグループが百貨店を買収。セレクティブ・リテーリング部門の傘下となった。

 デパートは資本主義を発明した

デパートとは純粋に資本主義的な制度であるばかりか、その究極に発現であると。なぜなら、必要によってではなく、欲望によってものを買うという資本主義固有のプロセスは、まさにデパートによって発動されたものであからである。・・・歴史をひもといて見ると、前段階資本主義が本格的資本主義に移行した時期は、デパートの誕生とぴったり一致している事に気づく。すなわち、19世紀の中頃から20世紀の初頭にかけて、フランス、イギリス、アメリカなどの大都市に次々と生まれたデパートは、折から工業生産に移った遷移産業と持ちつ持たれつの関係に入って、大衆消費経済を作り出したのである。・・・デパートを発明した(ボン・マルシェ百貨店の創業者)このブシコーこそが資本主義を発明した者なのである。

19世紀後半という時代

ナポレオン三世の産業・経済政策は、金融資本の育成、鉄道や万国博などの国家的プロジェクトに導入、株式会社設立の簡素化、民活、消費の奨励などというように、明らかに高度成長を狙った拡大経済政策であった。「ボン・マルシェ」はこの高度経済成長の波に上手く乗る形になった。(38ページ)「ボン・マルシェ」の顧客層は、主に第二帝政期に上昇をとげた中層のブルジョワジーだった。この階級は、上層のブルジョワジーに憧れつつ、下層のブルジョワジーとの差別化を生きがいといする特徴を持っていた(以下略、197ページ)

欲望喚起装置としてのデパート

「ひとことで言えば、世界をスペクタクルに視覚的相性に変えるシステムとでもいうか、19世紀半ば、生産から消費へ、使用価値から交換価値へと、文化そのものの体系が大転換する自転に、人々に一定の「効果」を及ぼすオプティカル(光学)な仕掛けが商業的にも大々的に開発されている。(67ページ)・・・プシコーという魔術師の登場により、「ボン・マルシェ」に行くことは、まるでディズニー・ランドにでもいくような、胸のわくわくするファンタスティクな体験となり、買い物は必要を満たすための行為ではなく、自分もスペクタクルに参加していることを確認する証になる。・・・買いたいという欲望がいったん消費者の心に目覚めた以上、買うものはどんなものでもいいのだ。まず消費願望が先にあり、消費はその後にくるという、消費資本主義の構造はまさにこの時点で生まれたのである。

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今から150年前の巨大デパート!

教育装置としてのデパート

ライフ・スタイル、しかもトータル・プランに基づくライフ・スタイルという戦略が、欲望の全面的解放の旗振り役となる。・・・具体的なライフ・スタイルを中産階級の消費者に教育してやる必要があるのだ。なぜなら、彼らはまだ何を買うべきかを知らず、しかもそれが買うことができるのも知らないからだ。消費者に、到達すべき理想と目標を教え、彼らを励ますこと、これが「ボン・マルシェ」のひいてはデパートすべての任務となる。

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le cerf qui rit 笑う鹿:本書著者 鹿島氏の蔵書より、 

 ボン・マルシェの年間大売出し予定と家庭生活に必要な情報を組み込んだ家計簿「アジャンダ」を配布。そのコンセプトは「アッパーミドルを目指せ!」

新たな欲望の見えない時代

私は子供の頃両親に連れられてデパートに行くのが楽しみだった。両親は買い物の間、私はおもちゃ売り場に直行、そこで輸入品も含めた高いおもちゃに夢中で遊べた。そして時には私もおもちゃを買って貰えた。デパートにおもちゃ売り場を最初に作ったのもボン・マルシェ、実に100年以上前に試されていた。1984年ボン・マルシェ百貨店はルイ・ヴィトングループに買収された。正に資本主義の潮流に合致する経緯をたどっている。日本のデパート売上の推移を見ると1990年12兆円がピーク、そして2012年には7兆円を切る。私はそこに資本主義が欲望を満足させたが故に行き詰りを示した現象だと捉える。

蛇足

新しいと思った事はずいぶんに誰かがやっている。