毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

心臓が「どきどきする」から好きなのか?好きだから「どきどきする」のか?~心拍をめぐる話

ペニシリンはクシャミが生んだ大発見―医学おもしろ物語25話 (平凡社新書)

百島氏は医師,2010年2月刊

聴診器、レントゲン、輸血、ワクチン、麻酔…今では私たちが当たり前に恩恵を受ける医療技術の数々。その進歩の陰には、不屈の医師たちの人間ドラマがあった。

 
 
心臓の鼓動、心拍

体の外から触れることができる脈拍や心臓の鼓動については、非常に古くから記録があります。紀元前4000年、中国の伝統の黄帝は「塩をたくさん食べる人の脈は硬く、早死にする」と言っていたそうで、本当なら恐るべき洞眼です、。エジプトのパピルスに脈を調べる絵が残っており、失神した人は人脈が消滅することが記されています。(22ページ)

心拍と感情の関係 

生理学の父といわれるエラシストラトス(304BC-250BC)も脈拍を診断に応用しました。エラシストラトスは、マケドニアの王でセレウコス朝の開祖・セテウコス1世王の待医でもありました。セレウコス王は、政略上の理由でうら若き美女ストラトニケを娶りましたが、その直後、前妻の息子で嫡男でもあるアンティオクス王子が病に付してしまいます。病床に呼ばれたエラシストラトスは、ストラトニケが姿を現すと王子の脈が速くなることに気づきました。王子の病は、美しい義母への「恋の病」であると診断したエラシストラトスは、王朝の大切な後継者である王子の恋を成就させてその命を救うべく、ストラトニケとの婚姻解消を王にすすめ、かくして王子の恋はめでたく実った、という伝説が残っています。(25ページ)

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アンティオコスとストラトニケ

現代のスポーツにおける心拍の活用

運動強度が上がれば筋肉が血液を必要とするため、心拍が増える。現代のスポーツ医学では最大心拍は、理論上の心拍上限で、「220―年齢」という公式が知られている。この70%を上限として運動の強度をコントロールする事で運動強度が強すぎて無酸素運動となる事や、逆に負荷の低い運動で無駄の発生を防ぎ効率の良い運動強度を維持できる。

心臓の鼓動をコントロールできるか?

一方でアンティオクス王子とストラトニケの伝説は人は心拍を直接コントロールできない事に気づかされる。心理的に興奮すれば嫌でも心拍は上がるし、感情にぶれがなければ心拍は上がらない。我々は身体をすべてコントロールできていないという事に気づかされる。現代のスポーツでは運動をコントロールする事で心拍の水準をコントロールする。今や安価な心拍計によりリアルタイムに測定可能である。

心拍を運動レベルによってコントロールする事と、無意識による身体反応により心拍が影響を受ける事、ここには大きな違いがある。我々は無意識による身体反応の事を「感情」と呼ぶのかもしれない。心臓がドキドキして心拍が上昇するから「好き」になるのか?「好き」だから心拍が上昇するのか?意識して好きになるのか?無意識に好きになるのか?素朴な疑問に気づく。

蛇足

我々の意志とは誰が決めているか?