民主主義に大きな政府は必要か?~『謎の独立国家 ソマリランド』
高階氏はノンフィクション作家、西欧民主主義敗れたり! !終わりなき内戦が続き、無数の武装勢力や海賊が跋扈する「崩壊国家」ソマリア。その中に、独自に武装解除し十数年も平和に暮らしている独立国があるという。2013年刊
ソマリランドとは
ソマリランド共和国、通称ソマリランドは、アフリカ大陸東端のソマリア半島(アフリカの角)に位置する共和制国家。旧イギリス領ソマリランドを領土とする。事実上は独立国家として機能しているが、現在のところ国際的にはソマリアの一部であると見なされており、国家として承認されていない。(wiki)
ソマリランドのハイパー民主主義
ソマリランドはグルティ(長老院)が選挙による多数派の横暴をコントロールしている。3年以上内戦状態を終結させる為に氏族社会の長老達が和平に向けて交渉を続け、1996年和平が成立する。以来ソマリランドは選挙によって選ばれる大統領、議会、と氏族の長老によって構成されるグルティ(長老院)の3つの体制によって構成され、現在に至る。
ソマリランドは、(1996 年内戦終結もう15年も高度な治安を維持し、そういう事態を一度も招いていない。内部崩壊するどころか、危機を乗り越える度に、「最大氏族イサックと他の氏族の和解)「内戦終結」「全氏族の契約」「おおまなか武装解除)」「複数政党制への移行」「普通選挙による大統領選出」「平和裡の政権交代」とどんどん国家のレベルをアップさせている。(476ページ)
中央銀行が無くても通貨は安定
無政府状態になり、中央銀行もなくなってから、シリングはインフレ率が下がり、安定するようになった。なぜなら中央銀行が新しい札を刷らなくなったからだ。・・・大半が20年以上前の札をそのまま使っている。ボロくなりすぎた札は捨てられるから、総数は減ることはあっても増えることはない。だから、インフレが低く抑えられていのだ。その結果、シリングは普通に政府が機能している周辺国より強くなってしまった。(233ページ)
ソマリランドは独立を希望
ソマリランドは1996年以来国際社会に対し南部のソマリア共和国からの独立を志向している。これに対し国際社会はソマリランドに対し、内戦の続くソマリア共和国からの独立を認めていない。高野氏はソマリランドでハイパー民主主義が成立している要因を「何が起きても最終的には我慢して平和を守ってきたのは、結局は国際社会に認められたいからではないか?(477ページ)と考える。
23歳の女が1人で確かめた!本当にソマリランドは安全なのか? / Nishida Seiwa | STORYS.JP
大きな政府と中央銀行が無くとも
国連に加盟していなくてもソマリランドは国際社会という概念を理解し、その概念が氏族社会の内紛を抑え込んでいる。ソマリランドは民主主義の欠点である数の横暴と派閥に陥る点を制御しているのである。ソマリランドは経済規模が小さく大きな政府を抱える事が出来ない。中央銀行すら無いのである。
政府があるから民主主義があるのではなく、中央銀行があるから通貨流通が維持される訳では無い。政府も中央銀行も手段であり目的では無いのだという事になる。ソマリランドはこのパラドックスに気づかせてくれる。
蛇足
国際社会が無視しているからソマリランドは和平と民主主義を維持している。
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