アセチルコリンという体内物質を知っていますか?~『心臓の力 休めない臓器はなぜ「それ」を宿したのか 』柿沼由彦氏(2015)
心臓の力 休めない臓器はなぜ「それ」を宿したのか (ブルーバックス)
柿沼氏は心臓の研究者、医師、活性酸素という猛毒にも曝されながら、なぜ心臓は過労死しないのだろうか? (2015)
カバー表紙:赤は交感神経、青は副交感神経、赤が圧倒的に多い。
心臓では交感神経がプラス、副交感神経がマイナスに制御
私たちの体内には自律神経という、意図的にコントロールできない神経がある。自立神経には呼吸・循環、血圧調整などの生命に直結する非常に重要な役割を担っている。そして自律神経には交感神経と副交感神経の2種類があって、プラスとマイナス、アクセルとブレーキという相反する役割を果たしている。(84ページ)
心臓ではアセチルコリンが産出されている
私たちの心臓はその進化の過程で、みずからアセチルコリンを産生させるしくみを獲得し、神経終末の分布数においては圧倒的な交感神経がもたらすノルアドレナリンに対抗していたのである。われわれはこれをNNCCS…「非神経性心筋コリン作動系」ということになるが、より親切に訳するなら、「神経によらない心筋細胞内におけるアセチルコリン産生システム」といったものになるであろう。(113ページ)
アセチルコリンは、20世紀前半に人類が最初に見出した神経伝達物質として知られていて、発見に貢献したデイルとレーヴィは1936年のノーベル生理学・医学賞を受賞している。…しかし、生物学的な進化という観点から考えてみたとき、違った可能性が見えてきた。アセチルコリンは進化の早い段階からみられる古典的な神経伝達物質なのだが、さらに系統樹をさかのぼると、非常に原始的な生物にもすでに存在していたことが報告されているのである。…進化の過程において神経系が発達しはじめたのは約4億年前とされているから、それよりずっと前(約30億年前)から、細胞においてアセチルコリンがつくられていたことになる。(101ページ)
多くの読者もご存じのように、ミトコンドリアの前進は太古(30億年前)の地球上に酸素が急増したときにいちはやく好気的代謝システムを獲得した生物であったとされる。彼らはまだ酸素を使うことができない生物たちの細胞に入り込み、一種の共生関係をつくりあげた。そのときから宿主の体内では、ミトコンドリアの暴走を抑制する「護衛者」としてのアセチルコリン産生システムがつくられていたのではないだろうか。(135ページ)
心臓は休めない
心臓は生涯動き続ける。その為に心臓全体に交感神経が張り巡らされ、鼓動を続けるように信号を送り続ける。一方で心臓の鼓動を抑える副交感神経はごく一部にしかない。それは進化の過程で神経系が生まれる前から細胞の中でアセチルコリンを生産する仕組みをもっており、これが機能して均衡を保っている。アセチルコリンは心筋が酸化によってダメージを受けることを防いでいるのである。心臓自身で活性酸素からの脅威を癒している。
本書ではアセチルコリンを人為的に増やすことができないか、という点は開発中とのことで詳しく触れられていない。簡単な記述ではあるが、血管の中を勢いよく血液が流れるとNNCCSの機能強化につながるという知見が紹介されている。つまり適度の定期的な運動は血管をしなやかにすると同時にアセチルコリン増産に効果があるという。
蛇足
心臓にも大切に使う方法がある?
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