毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

20年前、どうしてウシを畜産のキャディラックと呼んだか?~牛肉の食文化はわずか100年の歴史

脱牛肉文明への挑戦―繁栄と健康の神話を撃つ

リフキン氏は米国の文明評論家、本書は1992年刊。

かつて「豊饒の神」と崇められたウシが、富と権威を示す「財産」になり、食肉製造の「原材料」となり、ついには環境破壊の元凶となったのはなぜか?

 

ウシとは何か?

西洋文系の宗教的・世俗的生活の大部分は、この力強い有蹄動物のたくましい肩の上に築かれてきた。有志時代の初期には、人間は雄牛を男神、雌牛を女神として崇拝してきた。ウシはあらゆる創造物の祖先とみなされていた。ウシは生殖力、多産、豊穣を象徴していた。また、ウシは富の象徴でもあった。Cattle(畜牛)という語はchattle(動産)やcapital(資本)と同じ語源から派生している、ウシはもっとも古い携帯の流動資産であり、西洋文化圏の大部分において交換手段、つまり一種の通貨として使われてきた。(はじめにⅤ)

 

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左:フランス・ラスコーの洞窟の壁画、右:米国の証券会社メリルリンチのロゴ

  13億台(!)のウシという名前のキャディラック

現在地球上には約13億頭(人間4人につき1頭、1992年当時の計算、現在は6人に1頭の割合)のウシがおり、地球の陸地面積の4分の1で草を食んでいる。人類の5人に1人が栄養不良で苦しむ世界で、ウシは穀物生産の3分の1を消費している。ウシの放牧地と飼料穀物の栽培は、森林破壊、砂漠化、淡水資源への圧迫、地球温暖化の原因となっている。(本書扉より)

トウモロコシ肥育牛

今世紀(20世紀)の世界農業に起きた食用穀物から飼料穀物への根本的な転換-人間存在のあらゆる側面にインパクトを及ぼしている非常に大きな転換-の問題はあまり注意が払われていない。(200ページ)

不幸なことに、家畜のなかでもウシはとくに飼料変換効率の低い動物である。ウシはエネルギー浪費者であり、家畜の「キャディラック」と呼ぶ人もいる。肥育場での肥育中に牛肉1ポンド増やすのに9ポンドの飼料を必要とする。従って牛肉そのものを生み出すのは飼料のわずか11%足らずでしかない。(202ページ)

2012年の飼料に関する統計

 

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http://mitsui.mgssi.com/issues/report/r1405x_matsuura.pdf

世界では、現在年間約23 億トンの穀物(小麦、米、粗粒穀物) が生産・消費されているが、・・・利用用途別に見ると、需要の約5割を占める「食用」は人口と比例した拡大ペースが見込まれ、同2 割の「工業用」はエタノール原料の非可食植物へのシフト等により大幅な拡大は想定されていない。そうしたなか穀物需要を左右するカギと見られるのが、残りの約3 割を占める「飼料用」の動向である。(三井物産戦略研究所報告書より)

我々の牛を食べる割合は減少している

統計資料からわかる事は先進国ではもはや一人当たり食肉の消費量は増えておらず、特に欧米では牛肉から鶏肉へのシフトが発生している。これはダイエット志向と狂牛病の影響であろう。著書のリフキン氏は1992年執筆当時「消費者が一人ひとりの意志において牛肉消費を減らすことを選択すれば、今世紀に築き上げられた人工的な蛋白質連鎖が崩壊し始める」事を提案した。これが「脱牛肉文明への挑戦」であるが経緯はともかく脱牛肉の動きは既に始まっている。

トウモロコシ肥育牛と食料危機

1900年頃、米国産トウモロコシ肥育牛が英国に輸出されたのが食用穀物から飼料穀物への転換の契機となった。ウシは元来草をする動物であり自然には穀物を食べない。ここからウシが穀物飼料畜産産業に組み込まれた事を意味する。そして牛肉の需要を喚起したのはハンバーガー、これは1950年代米国で始まった食のスタイル。牛肉多量消費の食生活はせいぜい100年程度の歴史しかない事に気づく。今や牛肉志向は一時的な流行だったと言えるのかもしれない。

豚の飼料効率0.25-3、鶏の飼料変換効率は0.46程度と言われている。牛肉の消費割合が減少していく事はキャディラックから燃費の良い車に乗り換える様なもの。発展途上国の食肉需要が増えたとしても対応できると実感する。我々は飢餓を克服している。

蛇足

チキンバーガーは如何ですか?

(米国では法律により、牛肉以外の肉を使うとハンバーガーとは呼べない。)