毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

人間とは、エントロピー増大を加速させるための構造だった!~『確実性の終焉―時間と量子論、二つのパラドクスの解決』I.プリゴジン氏(2016)

確実性の終焉―時間と量子論、二つのパラドクスの解決  

非平衡の研究でノーベル賞を受賞、決定論的な物理法則と進化発展する世界との相互克服の読みは、最終段階を迎えた。(1997)

 

非平衡過程によって構造が生まれる

非平衡過程の物理学という新しい科学が発生した。それは自己組織化や散逸構造という新しい概念を導入したが、これらの概念は宇宙論をはじめとし、化学、生物学、さらには生態学や社会諸科学にまで至る広範囲な諸問題にわたって広く用いられている。非平衡過程の物理学は、一方的な時間がもたらす効果を記述し、不可逆性に対して新しい意味を付与した。…不可逆性が渦の形成、化学振動、レーザー光といった一群の新しい現象を引き起こすことを知っている。これらのすべての現象は、時間の矢の本質的に建設的な役割を例示している。…私としては、時間の矢をもたない平衡状態の物質は盲目であり、時間の矢とともに物質は開眼すると言いたい。不可逆性と非平衡過程に基づくこのコヒーレンスなしには、地上における生命の誕生は考えることさえ不可能だろう。…我々自身が、時間の矢や進化発展の落とし子なのであって、それらの親ではないのである。(導入3)

【用語の説明】 

非平衡:系に物質またはエネルギーの正味の流れがあり、あるいは相転移が起こっている状態を指す。

自己組織化:自律的に秩序を持つ構造を作り出す現象のこと。

散逸構造イリヤ・プリゴジンが提唱した、熱力学的に平衡でない状態にある開放系構造を指す。すなわち、エネルギーが散逸していく流れの中に自己組織化のもと発生する、定常的な構造である。

時間の矢:時間の非対称性(不可逆性)を表す言葉。時間は過去から未来にむけての一方向にしか(非対称的にしか)進行することがない。これを、一度放ってしまえば戻ってくることはない矢で例えたもの。

コヒーレンス:、波の持つ性質の一つで、干渉のしやすさ(干渉縞の鮮明さ)を表す。

 

散逸構造の例~ベルーソフ=ジャポチンスキー反応(BZ反応

珍しい化学振動(Chemical Oscillation)の代表例として知られている。金属イオンを選ぶことで溶液の色がさまざまに変わるので、この反応は試演に向いている。

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化学反応によって渦巻き状の波が発生する。(当然だが生命反応ではない)

ベロウソフ・ジャボチンスキー反応 Belousov-Zhabotinsky(BZ) Reaction | Chem-Station (ケムステ)

 

非平衡反応には構造が生まれる

どうして構造が生まれるか?構造があった方が反応スピードが速まるからである。物質のエネルギー状態によって固有の波が選択され、それが相互に干渉することによって大きな構造へと発展していく。

古典物理学では物理現象は時間に対し可逆的であり巻き戻し可能である。エネルギーあるいは物質の流入が続く非平衡過程を含む、物理学では物理現象は時間に対し不可逆的、「覆水盆に返らず」である。盆に返らないのはなく、構造はどんどん複雑になっていく。複雑になっていくことで反応が速まる、つまりエントロピーが増大していく。

プリコジンは「我々自身が、時間の矢や進化発展の落とし子なのであって、」と表現する。生命とは渦であり、泡であり、人間もまた反応を早くするために存在する構造である。

蛇足

 人類の存在によってエントロピー増大スピードは上がる

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