毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

量子生物学という言葉を知っていますか?~『量子力学で生命の謎を解く 量子生物学への招待』Jカリー氏×Jマクファデン氏(2014)

量子力学で生命の謎を解く 量子生物学への招待

量子生物学とは、生物の持つ量子力学的な性質を研究し、 量子力学を使って生命現象を解き明かす学問のことである。(2015)

 

 

シュレーディンガーの「生命とは何か?」(1944)

シュレーディンガーは遺伝子は、1000個程度の原子から成り立っており、基本的に安定した構造を持っている。この数は、物理的に見れば、安定するには少なすぎるが、遺伝子は安定性を保っている。この問題について、シュレーディンガーは、「遺伝子は非周期性固体である」と論じた。一般に結合体を構築するためには、同型の構造を三方向に繰り返し繋ぐ方法と、徐々に拡大する凝集体を形作る方法がある。そして、シュレーディンガーの見解によれば、遺伝子は後者の構造を採用している。

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物理的安定

シュレーディンガーも知っていたとおり、熱力学の法則など、正確で繰り返し検証可能な古典的な物理学や化学の法則は、実際には原子や分子のランダムな運動が支配する統計的な法則であって、平均的にしか正しくなく、厖大な数の粒子が相互作用するからこそ信頼に足る。・・・古典的な物理学と化学の法則はすべて、この「多数の粒子の平均化」つまり「無秩序から秩序へ」の原理に基づいているのだ。(61ページ)

遺伝的安定

遺伝子の伝達はかなり正確に行われ、変異率(エラー)は10億分の1未満であることが知られていた。シュレーディンガーはこのような極めて高い忠実性に基づいて、遺伝の法則が古典的な「無秩序から秩序へ」の法則に基づいているはずがないと確信した。そして、遺伝子は一個一個の原子や分子のようなものであって、自らが構築にかかわった非古典的だが奇妙に秩序だった法則、すなわち量子力学に支配されているのだと提唱した。(63ページ)

非周期的固体

DNAのコードは核酸塩基の繰り返し構造によってできており、それぞれの繰り返し単位が4種類の塩基のうち1つで占められているという意味で、確かに非周期的である。(231ページ)

陽子の位置は量子力学によって決まる

(遺伝コードを担っているDNAのペアは)それぞれの鎖の上にあるお互いに相補的な塩基に含まれる1個ずつの原子が、1個の陽子、要するに水素原子核を共有することで作られる。・・・(DNAを構成する)塩基Aと塩基Tがペアになるのは、Aの持っている陽子が、Tと水素結合を作るのにちょうどよい場所になるからだ。(232ページ)

量子力学で生命の謎を解く

シュレーディンガーは遺伝子の存在が確かめられる10年前の1944年、遺伝子は非周期的固体であり、量子的存在であると予測した。生命現象のマクロの動きは熱力学で説明が付く。しかし遺伝子を考えると量子的存在、遺伝子の持つ粒子的性格=離散的性格が必要であると説いた。シュレーディンガーは「生命体はマクロな系のように思えるが、その振る舞いの一部は、温度が絶対零度に近づいて分子の無秩序さが失われたときにおこるあらゆる系が取りうるものに近い」。

突き詰めてみると遺伝子がかなり正確に情報を伝達していること、更に言えば原子構造が堅い構造を持っていること、これらは熱力学ではなく量子力学によって説明されている。

それでは生命現象に量子的存在のもう一つの性格、波動的性格、は何らかの効果をもたらしているか?本書では様々な例を上げるが理論的結論にまでは至っていない。量子生物学は始まったばかりである。

蛇足

量子とは粒子的な最小物理量

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