毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

"知能指数"と"賢いこと"は一緒か?~『なぜ人類の知能は上がり続けているのか?』J・R・フリン氏(2015)と『アルジャーノンに花束を』D・キイス

なぜ人類のIQは上がり続けているのか? --人種、性別、老化と知能指数

フリン氏は道徳哲学、心理学の研究者、 20世紀を通じて人間の知能指数<IQ>は上昇を続けている――「フリン効果」の発見者が語る、現代人の知能の真実。 (2015)

 

 

フリン効果

 

 

人類の知能は向上し続けています。少なくとも、知能指数(IQ)のスコアが、過去100年にわたって上昇を続けているのは事実です。この現象はフリン効果として知られています。(3ページ日本版はしがき 斎藤環)

 

現代のIQを基準にすると?

 

1917年のアメリカ人の平均IQは現代の平均値100に対して72で、そこから1900年のIQを推定すると67になる。・・・アメリカはIQが67から100へ急上昇したことで産業が発展したのではない。現代社会に近づく第一歩でIQが僅かに上がり、それが次なる第一歩を切り拓いて、さらに少しだけIQが上がりとハシゴを一段一段登るように、今の栄華へとたどり着いたのである。(51ページ)

注:現代においてIQ70以下は何らかの知的障碍を疑うべき値。

 

こうしてIQは上がった

 

 

20世紀に入って私たちは科学的見方を身につけ、新しい「思考習慣」を手に入れた。そして、物事を分類することが理解の前提となることに気づいた。また仮定を真剣にとらえ、抽象的な事柄に対して論理を行うことが自然だと気づいた。(145ページ)

 

女子学生より男子学生の方がIQが高いのはなぜか?

 

 

学生サンプルを分析する際には、15歳以降で男子学生に中退者が多いこと、つまり男子学生のサンプルからIQの低い集団が除外されていることを忘れてはならない。矛盾しているように聞こえるかもしれないが、平均IQで男子大学生が女子大学生を上回る事実は、男性が遺伝的に優れているのではなく、男女に遺伝的な差がないことを証明しているのである。(149ページ)

 

氏より育ち~フリン効果の示すこと

 

著者のフリン氏はアメリカ人のIGが100年で30ポイント上昇したことは氏(遺伝)より育ち(環境)を示すものだと考える。100年間でアメリカ人が遺伝的に変化したとは考え難い以上当然の帰結である。しかし現代において「氏より育ち」を否定し、人種間、男女間、年齢などによる知的能力に差があることを主張する意見が後を立たないことを指摘する。原因と結果と相関関係を取り違えたことによるものであるからだ。

それではIQの上昇は社会を豊かにしたか?

 

社会が複雑化するにつれて現代人のIQはあがった。これは①分類すること、②論理を使って抽象概念を扱うこと、③仮定を真剣に受け止めること、の3点に要約される科学的思考習慣によるという。現代社会はこれらの習慣なくして生活できなくなっているのである。

しかし、IQでも語彙力の分野では親と高等教育を受けた子で比較すると子供の方が親より劣るという。高騰教育を受ければ科学的思考習慣は獲得できるが、語彙力を増やすことは高等教育だけでは不十分であり、仕事を通じて獲得していると理解した。勉強しただけでは不十分であり、外の世界を知る必要があるのだ。

社会が賢くなるということ

 

フリン氏は更に大きな問題提起をしている。フリン氏はTEDの講演で、「現代人の知能は上昇したが、それで政治的に、社会的に賢くなったのか?」と問う。フリン氏は歴史観が欠如していれば、思考能力が優れていても判断を誤ることを指摘する。

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ジェームズ・フリン: なぜ祖父母世代よりもIQが高いのか | TED Talk | TED.com

例えばアメリカのアフガニスタンへの軍事行動は、近代西洋社会の5回目の侵攻であり西洋社会は4回目までことごとく失敗し、そして5回目のアメリカもまた失敗したと指摘する。思考能力の向上は誤った情報を与えられると合理的に誤った判断を下してしまう。知能は向上したが賢くはなっていないということになる。

アルジャーノンに花束を」を思い出す

 

アルジャーノンに花束を」では医療によって一時的に知能指数の向上した知恵遅れの青年の恋愛小説。知能とは何かを考えさせる小説でもある。フリン効果は「知能は環境によって上昇させられる」ことを示した。「アルジャーノンに花束を」は論理的思考だけでは恋愛には不十分であることを教えてくれる。恋愛には人に恋して、失恋して、そして恋をするストーリーが必要なのである。

 

32歳になっても幼児なみの知能しかないチャーリイ・ゴードン。手術によりチャーリイの知能は向上していく…天才に変貌した青年が愛や憎しみ、喜びや孤独を通して知る人の心の真実とは?

 

恋愛に限らず社会を認識するには、人を語り合い、世界を見て、歴史を学ぶ、これらのことが実際に必要であると拡張できると思う。我々はせっかく科学的思考という習慣を身につけて知能が向上した。だからこの知能を「社会をより良くすること」=「賢くなること」に使わないといけない。

蛇足

最後に知能指数検査をしたのはいつだったか?

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