今から45年前の脳の本を読んでみた。~脳は書き換え可能なOSが実装されている!
本書は1970年に脳生理学の研究者である時実利彦(1909-1973)によって執筆された。今も脳にまつわる書籍は数多く発行されているが本書がその元祖かもしれない。
脳と「生きていく」こと
第一は、生まれながらにして備わっている心、すなわち学習しなくても身につく心によって操られている本能行動と情動行動である。これらの行動によって、個体維持と種族保存という基本的な生命活動が保障されて、これによって私たちをして、天性的存在として「たくましく」生きてゆかせているのである。
第二は、学習によって経験をつみ、変化する外部環境に適切に対処してゆく適応行動であって、これによって私たちは技術的存在者として「うまく」生きているのである。
そして第三は、未来に目標を設定し、価値を追求し、その実現をはかろうとする創造行為であって、これによって私たちは、人格的存在者として「よく」生きていこうとしているのである。(40ページ)
新皮質のソフトウェアである前頭葉
私たち人間ですばらしく分化発達している前頭葉連合野には、思考、判断、推理、創造、意志、情操(よろこび、悲しみ、ねたみ、うらみ、嫉妬)、競争意識、欲望(物欲、名誉欲、権力欲)などの精神が営まれている(以下略、45ページ)
生きている |
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反射活動、調整活動 |
脳幹・脊髄系 |
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生きていく |
たくましく |
本能活動、情動活動 |
大脳辺縁系 |
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うまく |
適応行動 |
新皮質系のハードウェア |
六識 |
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よく |
創造行為 |
新皮質系のソフトウェア |
七識 |
大乗仏教の唯識論と脳
私たち人間の心には八識があるという。目識、耳識、鼻識、舌識、身識(皮膚感覚)、意識の六識と、第七識の意(未那識)と第八の阿頼那識である。このうち六識は、現象的な意識であって、未那識と阿頼那識は、根源的な深層意識である、そして、未那識は自我に執着する無意識であるが、阿頼那識は我執を脱却した宇宙的意識であって、もろもろの心の根源をなすものだという。脳の仕組みにその対応を求めると、六識は、新皮質のハードウェアであり、未那識はソフトウェアであるといえよう。(213ページ)
我々の脳は書き換え可能
45年前の記述が少しも古くなっていない事にまずは驚く。我々の脳は書き換え可能なソフトウェア=前頭葉の働き、を持っている事を再確認する。唯識論のフレームと丹生機能の対比は最近の分析ではなく、西洋医学と仏教思想をリンクさせようとした日本の特徴なのであろう。
我々の行動は、無意識に制御するコンピュータのOS(オペレーティングシステム)の様に制御されているという事である。OSがバージョンアップ可能である様に、我々の脳のソフトウェアもまた書き換え可能であると考えたい。
蛇足
どうやったら無意識な脳のOSの存在に気づけるか?
奇跡の能~脳科学者の脳が壊れたとき - 毎日1冊、こちょ!の書評ブログ