毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

我々は地球の内部を透視化する技術を手にした~地球物理と天文学、そして生命論の結節点

素粒子で地球を視る: 高エネルギー地球科学入門

田中氏は高エネルギー地球物理学の研究者。「宇宙が作り出すミュオンやニュートリノが地球を観測する新しい窓を開く。 」

f:id:kocho-3:20140722080906p:plain

P162地球ニュートリノの2/3ha地殻由来、(1/3はコアから)

 地球ニュートリノグラフィ~2014年5月発表

東北大学ニュートリノ科学研究センターの地球ニュートリノ観測技術と、東京大学地震研究所で開発が進められている火山のミュオグラフィ技術を融合することで、地球内部を透視する地球ニュートリノグラフィに使える可能性のある反電子ニュートリノ方向検知技術を見出しました。

地球ニュートリノグラフィのデモンストレーション:地... | 受賞・成果等 | 東北大学 -TOHOKU UNIVERSITY-

 地球内部で発生するニュートリノ

地球内部で自然に起きている核反応によって、反電子ニュートリノが放出されることが知られている。この反電子ニュートリノが、地球深部の元素組成および構造に関する重要な情報をもたらすかもしれないのだ。それは地球内部でニュートリノを生成する物質が主にウラン、トリウム、カリウムに限られることと、それらが作るニュートリノのエネルギーが、これらの元素に特有な分布を持つ事による。また同時にこれらの放射性物質の崩壊が自然の原子力発電所の役割を果たすことで、地球全体から放出される熱に寄与するからである。

地球は1㎠あたり、1秒間に600万個の反ニュートリノを放出している反ニュートリノ星だ。こんなに多くのニュートリノが地表表面から出てくるのは地球がニュートリノにとって透明だからだ。物質と弱い相互作用しかない、地球起源の反電子ニュートリノは「地球ニュートリノ」と呼ばれている。地球ニュートリノを観測することで、地殻やマントルウランやトリウムの絶対量を直接測れる。そして詳細な地球ニュートリノに関するデータが得られれば、地球形成のもととなった物質がどのように地球を創ったかを説明することができるようになる。(159ページ)

Kamlandとは(Wiki)

カムランド (KamLAND)は、東北大学大学院理学研究科付属ニュートリノ科学研究センター(Research Center for Neutrino Science)による反ニュートリノ検出器である。カミオカンデの跡地につくられた。カムランドは液体シンチレータと呼ばれる粘性のある物質を溶媒に用いる。また、液体シンチレーターをバルーンに入れ、周囲をオイルで覆う。これらの工夫によって低エネルギーのニュートリノの検出を可能とする。 

f:id:kocho-3:20140722080626p:plain

 

Kamlandで何がわかりつつあるか?

ウランやトリウムの崩壊による熱は最大60TW(テラ・ワット)であるという上限値が決まったのである、人類史上初の出来事だった。Kamland付近で観測される地球ニュートリノは、その3/4が地殻起因である。(中略)ニュートリノの到来方向に感度のある検出器をつくれば、地球ニュートリノによる全地球マッピング、地球ニュートリノグラフィティも夢ではなくなる。(163ページ)

 

従来地球内部は地震波の伝播状況から構造を想像してきた。ニュートリノの発生分布を3次元的に立体的に表現する事により化学的組成、分布等に関して地球を可視化できるという事。これらにより地球科学、天文学、そし生命論、の接点となる事が期待されている。本書の副題は「高エネルギー地球科学入門」。

蛇足

地球内部の構造が生命圏をデザインしている。