毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

免疫を制御する遺伝子はどんどん変異する~非常識な遺伝子、それを見つけたのは非常識なアプローチ

 私の脳科学講義 (岩波新書)

本書は 抗体の多様性の謎を解明してノーベル賞を受賞した利根川博士の自伝

 

GODのミステリー

 わたしたちが病原体に囲まれながら生きていく為には、いったいどのくらいの種類の抗体をつくる用意をしておかなけばいけないかという質問にもなります。それについては、様々な実験と推察から、少なくとも100億種類以上の抗体をつくる能力を備えていないと、抗体の侵入に対応できません。(中略)(人間の)3万個の遺伝子のうち、抗体用にはほんの一部しか使えないのです。それにしても、100億と3万、これでは明らかに数の上でジレンマがあります。最大数万種類の遺伝子から100億個の抗体がなぜ作られるのか。これが、免疫学者のメルビン・コーンが「Generation of Diversity多様性発現)のミステリー」と名付けたジレンマでした。(29ページ)

 

 

抗体は遺伝子が働いて生成される

遺伝子のランダムな多様化と環境による変異株の選択、これがダーウィンの進化論の2大原理、進化論のエッセンスになるのです。(中略)免疫系の場合は、一世代、一個体の免疫系の中で、しかも抗体遺伝子に限って、ものすごい速度で、親から受け継いだ限られた数の遺伝子に、変異が入っていくのです。しかもダーウィンの進化論のもうひとつの原理である、環境による特異的な選択も、免疫系の中で起こっています。このメカニズムのおかげで私たちは親から受け継いだ1000個程度の抗体遺伝子、つまり遺伝子全体が3万あるとすれば3%になりますが、これを急速に変化させることによって100億個以上の抗原に対処していることがわかったのです。(33ページから再構成)

  

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ノーベル賞日本人受賞者7人の偉業【利根川 進】

 利根川博士は「抗体を作り出す遺伝子が、組みかえられて使い回しされているのかもしれない」と考え、まだ抗体をもたない生まれる前のマウスの遺伝子と、大人のマウスの遺伝子(マウスのがん細胞の遺伝子が使われました)とをくらべていきました。「抗体は白血球の一種であるB細胞によって作られます。その形はYの字を立体的にしたような感じですが、Y字の先端部分に、病原体などの侵入者をそれぞれ別個に見分けるところが存在しています。その部分の遺伝子を調べたところ、生まれる前のマウスでは、遺伝子がいくつもの小さな配列に分かれてつながれていました。ところが大人のマウスでは、遺伝子が動いていて必要なものだけが完全に一つの配列を作っていました。抗体の遺伝子は、成長するに従ってダイナミックに動いて組みかわり、その組み合わせの数だけ抗体を作り出していたのです。このやり方だと、1000個ほどの遺伝子で100億種以上の抗体が作り出されることもわかりました」。

  

抗体遺伝子の特異性

遺伝子は進化の長い過程においてしか変わらない、というのが生命科学の常識だったのです。それに対して、免疫系の抗体遺伝子についてはそのドグマがあてはまらない、ということがこの研究で明らかにされたわけです。

 

 利根川氏は1987年、免疫グロブリンの特異な遺伝子構造を解明した功績によりノーベル生理学・医学賞を受賞する事になる。利根川氏の専門は分子生物学、それを免疫学に応用したのだがその切っ掛けは利根川氏の指導教授ダルベッコ博士によるもの。利根川氏は免疫学に分子生物学の手法を持ち込んだ最初の一人だったという事になる。

 

蛇足

 免疫の遺伝子も非常識なら、それを見つけた利根川氏のアプローチも免疫学では初めて、かつ非常識。