毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

農耕は人間の遺伝子に変化を与えたか?~『1万年の進化爆発』グレゴリー・コクラン/ヘンリー・ハーペンディング(2010)

一万年の進化爆発

 グレゴリー・コクラン氏、ヘンリー・ハーペンディング氏は人類学・集団遺伝学の研究家、人類の進化は過去1万年間に緩慢になった、あるいは停止したという考えかたがある。しかし実際には、むしろ加速している。本書のテーマは、現在、人類の進化は、ヒトの誕生以後60万年間の平均よりも約100倍も速く進んでいることを読者に納得して貰うことである。(2010)

 

 

農耕の開始

氷河期が紀元前1万年頃に終わったとき、世界はより温暖で湿潤になり、気候は以前より安定した。二酸化炭素濃度が上昇したため、植物の生産性も高まった。こうして農耕のための舞台は整った。(88ページ)

アメリカ先住民

アメリカ先住民は約1万5000年前に北東アジアからアメリカ大陸に渡った。彼らは、農業の誕生後に生じた混み合った場所で発生する病気にかかったことがなかったし、そうした病気に対する遺伝的防御が発達するのは、のちになってからだった。…アメリカ先住民は独自に農業をはじめたが、動物の家畜化はほとんど行わなかった。家畜化に適した動物種は、すでに彼らの手で一掃されてしまっていたというのが主な理由だ。…そのため、アメリカ先住民の場合、耐病性が有利に働く選択圧は旧世界の住民より弱かった。(196ページ)

感染症の数々

天然痘、はしか、ジフテリア、百日咳、ハンセン病、腺ペストなどのユーラシアの感染症が短期間のうちにアメリカ大陸に持ち込まれた。熱帯や亜熱帯地域では、それにさらに黄熱病、デング熱、熱帯性マラリアリンパ系フィラリア、住血吸虫病、オンコセルカ病が加わった。大部分はアフリカから来た病気である。しかし、逆方向、すなわちアメリカ大陸から旧世界へは比較的わずかな病原体しか伝わらなかった。私たちが知る限り、ヒトの病原体で新世界から旧世界へ広がったものは、梅毒とスナミノ症だけだ…突然こうしたなじみのない感染症の雪崩に見舞われ、アメリカ先住民は大打撃を受けた。ある推定では、アメリカ大陸の先住住民人口は数世紀の間に90%減少したとされる。ほとんどすべての志望原因は感染症だ。(199ページ)

 

1万年の進化爆発

 

アメリカ先住民は農耕が開始する前、1万5000年前にアメリカ大陸に渡った。そしてアメリカ先住民は大型の動物を狩りにより絶滅させていた。その後気候の安定と共にトウモロコシ、ジャガイモなどの農業を開始するがユーラシア大陸と違って家畜由来の感染症には晒されなかった。一方ユーラシア大陸では猿を含む大型動物や家畜などから様々な感染症に晒されていた。アメリカ先住民はユーラシア大陸由来の病原菌の経験がなかった。

本書は農耕の開始によって、人類の進化が加速したと主張する。遺伝子の変化をもって進化というのであれば、指摘の通りであろう。私は遺伝子の変化を持って進化と呼ぶのには違和感を感じる。しかしどうしてアメリカ先住民がユーラシア大陸の病原菌に抵抗力が無かったか、と感がるとき、遺伝子を含む免疫機構の差異によるものだとの説明は納得がいく。

蛇足

 

ヨーロッパはアメリカ大陸を発見し、それ以前のアメリカ世界を一掃した。

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