毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

アメリカは現代のモンゴル帝国なのか?~『ユーラシアの東西―中東・アフガニスタン・中国・ロシアそして日本』杉山 正明氏(2010)

ユーラシアの東西―中東・アフガニスタン・中国・ロシアそして日本

 

杉山氏はモンゴル史の研究家、イラク・アフガン戦争の歴史的意味とは、ユーラシア大陸を一塊りとしてみれば、あらたな地平が浮かび上がる。(290ページ)

 

現代のタタル~タタルとはモンゴルの別名

 

アメリカによるイラク戦争の勃発は、イスラーム・中東側から見れば「第三のタタル」の襲来ではなかったか?すなわち、歴史的にかえりみて「第一」のそれは、今からおよそ750年前、モンゴル帝国によるアッパース朝の打倒と、西アジアの支配であった。別の言い方をすれば、人類史上で最大の陸上版図を保有しつつ、同時にインド洋上ルートによる海上政策も展開した陸と海の巨大帝国モンゴルによって、東西を見渡したかたちでの国家システムや当時の文化・学術・技術・産業の体系がまとまったかたちで中東にもちこまれた。(25ページ)

第二のタタル

18世紀からいちじるしくなる中東全体への、列強化しつつあったヨーロッパの圧力、およびそこから発せられる西欧風文明のそうそうたる到来とどの需要であった。“外来のシステム・制度・価値観によるイスラームとその思想・社会の変質を、当時の中東の知識人・識字層は大いなる危機感をこめて、あらたなる「モンゴル襲来」というアナロジーでとらえたのである。(26ページ)

第三のタタル

息子のブッシュ政権によるイラク進攻・制圧作戦にほかならない。それはまぐれもなく、人類史上最強の陸海軍すべてを揃えた恐るべき軍事国家という名の“外圧”であた。(26ページ)

イラクアフガニスタン

(本書執筆の2010年時点で)アメリカは、イラク駐留兵力を削減する一方、アフガニスタンには増派そ重ね、十万を数える米軍のほか各国派遣の大小をあわせ、およそ14万がアフガニスタンに展開している。(26ページ)

アフガニスタンには昔から数々の勢力がやってきた。個人として、または隊商や団体としていきかい、もしくは通りすぎただけならば、おそらくその数ははかりしれない。…実は歴史上、きわだって“大帝国”か巨大勢力圏を形成したアレクサンドロス、モンゴル、イギリス。ソ連、アメリカは、事情と様相はさまざまに異なるけれど、いずれもおもしろいことにアフガニスタンで苦しんだことになる。

つまり、ユーラシアサイズか、さらにグローバルでの「世界帝国」はユーラシアという地上最大の陸塊を把握せんとするならば、その中央部にあって四方に通じるアフガニスタンの地に多かれ少なかれ、かかわらずにはおれないことを意味する。(31ページ)

 
アメリカはアフガニスタンに駐留しつづける

 

オバマ政権アフガニスタンに5500名規模の駐留を継続するという。モンゴル史が専門の杉山氏はアメリカとモンゴル帝国を比較する。モンゴルが陸と海の帝国ならば、アメリカは陸海空、そして電子空間までも抑えた世界帝国である。しユーラシア大陸の真ん中に位置するアフガニスタンでは陸上のパワーが必要であり、いくら技術が進んでも陸上での活動は中世以来変わっていないという。

中東を視点に千年単位で眺めると、アメリカもまた一つの波に過ぎないことがよくわかる。歴史は、いわんや国境、国家という概念は常に動いている。

蛇足

 西の中東はタタル、東の日本は元寇

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