毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

思わずよだれが出る!フォトリアリズムが描く苺タルト~本物より美味しそうとはどういう事か?

 

サブリミナル・インパクト―情動と潜在認知の現代 (ちくま新書)

 現代社会は過剰な刺激に満ちている。直接快楽を刺激する音楽と映像。絶え間なくメッセージを投げかけるメディアやコマーシャル。それらは私たちの潜在脳に働きかけて、選択や意思決定にまで影を落とす。

 

どうして音楽は快をもたらすか、伝統的心理学では説明出来ない

音楽における快はどこから来るのか。どこから来るか私たちが正確に名指せない以上、これは明らかに心の潜在過程を含む問題です。(中略)(伝統的)心理学では快は外部からの「報酬(reward)」によってもたらされると考えます。快とは動物行動に駆り立てるすべてのものを意味する術語です。パブロフの犬の実験も報酬による学習である。iPodで音楽を聞く事で食べ物や飲み物を貰える訳ではありません。(78ページ)

音楽は内部報酬を持っている

iPodで音楽を聞く人は)音楽そのものの内にある快にハマっていると見るべきでははないでしょうか?現代人は皆、食べ物やお金の様な外部からの報酬とは関係なく、感覚そのものの内にある快を楽しむ動物になったのではないでしょうか?そうした内なる快を、外部からの報酬と対比させて、内部報酬と呼ぶ事も出来ます。(79ページ)

音楽には親近性と新奇性がある

音楽が実は定型パターンの変化を伴っている事です。西洋音楽では、作曲の作法はいろいろありますが、メインテーマ(主旋律)の繰り返しの後新しい展開に移り、最後のまたメインテーマを繰り返す、というのが基本構造のようです。(83ページ)

反復とは同じ刺激パターンを繰り返し経験することで、その刺激パターンのなじみ深さ(深近性)を増すことです。他方変化とは、新たな刺激パターンを提示することで新奇な印象を与えることです。(85ページ)

音楽の特性は画像でも同じ

外部情報の有無にもかかわらず、脳が感覚そのものの親近性、新奇性に反応する様になる。(外部情報の切り離し)の瞬間を反映している様に見える系譜が、20世紀絵画史の中にあります。ポップ・アート最盛の60年代米国に発し、70年代には欧米を中心に世界中で流行したフォト・リアリズムの流れがそれです。(中略)その細部を仔細に調べると、写真とまったく同じという訳ではありません。細部で特定のエッジや色だけを誇張してあり、そのレベルであれこれ試行錯誤が行われて、その結果「写真以上のリアリティ」を生むに至ったのです。(102ページ)

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イチゴのタルトにかけられたシロップが光輝き、したたり落ちる様子に思わずよだれが!(103ページ)

Strawberry Tart - Audrey Flack Poster :: PicassoMio

視覚皮質の神経細胞は、こうしたエッジやコントラストの検出器、増幅器として働くことがわかっています。フォト・リアリズムの技法はそうした神経情報処理を促進するのです。しかもそれによっておそらく、親近性と新奇性が同時に高められています。フォト・リアリズムは感覚皮質が切り離され、暴走し始める瞬間のスナップショットなのです。(104ページ)

 

 

フォト・リアリズムを一言で言えば、本物より綺麗という事。元の画像の感覚とは切り離されて親近性と新奇性のテクニック自体が内部報酬を生むというメカニズムとして捉えられる。抽象的に言えば「我々は、感情による神経と身体の反応を潜在的に経験している」、そして本書タイトルの「サブミニナル・インパクト」に我々は囲まれている。

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CNN.co.jp もはや別人、フォトショップ加工の美女

蛇足

サブミニナル・インパクトを自分の周囲に見つけられるか?