毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

日本で資本主義始まったとき~『資本論に学ぶ』宇野弘蔵(1975年刊行、2015年文庫化)

佐藤氏の「資本主義の極意」を読み、宇野弘蔵マルクス経済に興味を持つ。

  

 

資本論に学ぶ (ちくま学芸文庫)

本書は宇野弘蔵の講演や対談などをまとめたもの。1975年出版、2015年文庫化

宇野 弘蔵(1897 - 1977)は、日本のマルクス経済学者。唯物史観社会主義イデオロギーから切り離した『資本論』に基づく経済研究を確立した。

 

資本主義の根底は労働力の商品化

労働力の商品化というのは、資本主義の根本なのです。商品経済が社会の根底まで貫いている。(あらゆる商品は生産に要する労働価値によって価値が決まるという)価値法則が根底まで貫いているというのは、労働力が商品化していることに根拠を置いているのだ、と言っていいのです。・・・ところが労働力という商品は、他のように資本の生産物ではない。・・・労働力というのは、商品であっても直接には生産することができないのです。(79ページ)

労働力をどうやって商品化するのか?

一日の労働力を生産するということは、労働者にとっては生活それ自体なのです。・・・飯を食ったら自分の体の中に労働力が生産される、これは必然的に売るものだ、という関係では決してない。やはり労働力がそれを商品として売らざるを得ないという社会関係から商品化しているだけである。(81ページ)

資本の原始的蓄積

自分の労働で自分の作ったものを私有するという、つまり直接その生産者が自分の生産物を私有するという、その関係を否定することになる、原始的蓄積というのはそういう過程だ、・・・原始的蓄積の意味を簡単に申し上げますと、原始的蓄積というのは、基本的にいえば農民と土地とを分離することです。

最初の原始的蓄積は16世紀イギリス

イギリスの資本の原始的蓄積に現れるエンクロージャーをやる。エンクロージャーというのはお百姓の土地と農民を分離して追っ払うことです。そうすれば土地を追っ払われた農民は完全に無産労働者になるわけです。・・・それによって貨幣財産が資本として生産過程に入り、資本主義を確立することができるのです。(42ページ)

日本の資本の原始的蓄積

明治維新後、日本に資本主義が入ってきたときにみられるように、工業にとっては、自分の必要とする無産労働者をお百姓の中から供給してくれさえすれば、お百姓のやりかたというのは昔のままでもよろしい、という関係なのです。・・・後進国が資本主義化していくとどうなるかというと、農村の分解をイギリスほど徹底的にやらないで、しかも資本主義が発展することになるのです。(42ページ)

資本の原始的蓄積は偶然によって発生~佐藤優氏「資本主義の極意」より

「(15~16世紀の)ヨーロッパを大変な寒波が襲います。そのため、ヨーロッパ全域で毛織物の需要が急増しました。・・・羊毛でセーターやコートをつくると、飛ぶように売れる。・・・そのためイギリスでは領地や地主が農民を追い出して、羊を飼い始めた。このとき、農地の回りを生垣や塀で囲って牧場に変えたので「囲い込み」というわけです。」(50ページ)

資本論に学ぶ

マルクス資本論は、「労働力が商品化することが資本主義には不可欠」であると主張する。宇野氏は日本とイギリスの資本主義の歴史の差を解説する。イギリスでは「羊が人を食い殺す」といわれたほど徹底して資本の原始的蓄積が行われた。一方日本では明治維新に伴い、共用地などの私有化だけで農民が工業に供給され原始的蓄積が始まった。戦前の日本では農村の貧困が大きな問題であった。それは「労働力がそれを商品として売らざるを得ない」状況であったと言えるであろう。

それでは現在の日本はどうであろうか?日本の勤労者66百万人のうち、給与所得者は48百万人程度、比率からいけば70%以上と大きな割合を占める。当たり前だがサラリーマンを含め、労働者は多い。日本の資本主義の歴史を知ることで、資本主義を考えるいい機会となる。

蛇足

資本主義がイギリスではじまった必然性は実はない

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