自画像画はどうやって生まれたか?~『世界をつくった6つの革命の物語 新・人類進化史』S・ジョンソン氏(2016)
ジョンソン氏はノンフィクション作家、大発明に寄与したのは、ガリレオやエジソンといった偉人だけではない。多くの人が目の前にある問題に懸命に取り組むなかで
予想外に生み出されてきたのだ。(2016)
1440年代のグーデンベルグと眼鏡の関係
ヨハネス・グーテンベルグの印刷機は、眼鏡需要の急増を引き起こした。読書という新しい習慣のせいで、大陸中のヨーロッパ人が突然、自分は遠視だったと気づいた。環境の市場需要に刺激されて、レンズを生産したり、レンズを使って実験したりする人の数が増え、それが顕微鏡の発明につながり、それからまもなく私たちは、自分の体がごく小さな細胞でできていることを知ることができた。私たちの視野が細胞レベルまで広がったことと、印刷技術が関係あるとは思えないだろう。(14ページ)
ガラスと鏡が芸術も変えた
たとえばレンブラントは、生涯に40枚近い自画像画を描いている。しかし自画像画で注目すべきは、1400年以前、それはヨーロッパ芸術の伝統的表現法として事実上存在しなかったことだ。・・・自画像への興味が爆発した直接の原因は、ガラスを扱う技術のまた別の進展(鏡)だった。・・・鏡は画家にとってかけがえのない道具になり、自分自身の顔の細かい目鼻立ちも含めて、周囲の世界をはるかにリアルにとらえことができるようになった。(50ページ)
ハチドリ効果
ある分野のイノベーション、またはイノベーション群が、最終的に、まるでちがうように思われる領域に変化を引き起こす。・・・歴史上のハチドリ効果を観察すると、社会の変容は人間の主体的行動と意思決定が直接引き起こすとは限らないことがわかる。・・・・アイデアやイノベーションが独り歩きをして、つくり出した本人の構想には入っていなかった社会の変化を起こしているよう思える場合もある。(16ページ)
電球を発明したのは誰か?
電球はクラウドソーシングの成果だというのは言いすぎだが、トーマス・エジソンという一人の人間だけが発明したというほうが、もっと事実の歪曲である。・・・エジソンが関心を向ける80年も前から、白熱電球は発見されていたことだ。1802年、イギリス人科学者のハンフリー・ディヴィーが、初期の電池に白金のフィラメントを取り付けて、数分のあいだ明るく燃やした。(264ページ)
世界をつくった6つの革命の物語り
本書ではガラス、冷たさ、音、清潔、時間、光、が社会をどの様に変化させたかを説明する。
冒頭で引用したガラスは二酸化ケイ素を溶かす方法が鍵であった。これが確立されると窓ガラス、レンズ、眼鏡、顕微鏡、更には光ファイバーにまで波及していった。そしてそれは絵画に自画像をもたらし、資本主義の原点である自意識の確立にまで影響を与えている。
このハチドリ効果(花とハチドリとの共進化)で重要なことは花がなければハチドリは変化せず、ハチドリがいなければ花も変化しなかった。著者のジョンソン氏は様々な発明は輝かしい一人の人の貢献ではなく、先人の成果が必ずあると指摘する。著茶は「ほとんどのイノベーションは現在時制の隣接可能領域で起こり、そのとき利用可能な道具や概念と連動する」(316ページ)エジソンが電球を発明した時、その前にもその周囲にも競合がいたのである。イノベーションはハチドリ効果を起こすのであり、ハチドリ効果によりイノベーションが加速される。イノベーションとは異質との臨界面に生れる。
蛇足
鏡は自画像のためだけに生れた訳ではない
こちらもどうぞ