毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

芸術家の使命とは概念を最発明すること~『リ・インベンション―概念(コンセプト)のブレークスルーをどう生み出すか』三品和宏氏(2013)

リ・インベンション―概念(コンセプト)のブレークスルーをどう生み出すか

三品氏は経営戦略論の研究家、他社と同じ次元で「イノベーション」に邁進すると、同質化競争は避けられません。 次元の違う製品を生み出し、ブルーオーシャンへといたる道をどう歩むか。 (2013)

 

 

技術が変わる

19世紀末、それまでの努力の方向性を真向から否定するような発明が誕生しました。その発明とは写真技術です。その発明とは、写真技術です。イーストマン社による簡易カメラの実用化に伴い、写真はいよいよ画家の商売を脅かすようになりました。どれだけ本物のように描いた絵でも、実物そのものを瞬時に写し取ってしまう技術の前では、為す術はありません。・・・絵画の存在意義をゆるがすような危機的状況に抗い通したのは、今日でも高い人気を誇る印象派の画家たちでした。・・・彼らは光や風景の一瞬をとらえ、感じたままに、キャンパスに色をのせて描き上げる新たな流派を生み出しました。白黒写真には出せない色や、光を表現することに重点を置いたのです。

アメリカの印象派、ウェンデル

(アメリカ出身の画家でモネの下で)印象派の精神を学んだウェンデルは、生涯にわたって数々の風景画を残しました。・・・師匠であるモネの絵が粗い筆触で、平面的であるのに対して、ウェンデルの絵からは細かな筆使いと遠近法が用いられていることが見てとれます。筆致を粗くして光の変化を捉える印象派技法と、旧来の肖像画に用いられていた遠近法の技法を融合させたからこそ、このやわらかで、かつ現実味のある野原の情景を描き出せたのでしょう。

再び技術が変わる

ウェンデルが必死になって光や色の感じを表現しようと努力していたとき、またもや絵画をとりまく技術が変化していたのです。それがカラー写真の登場でした。人物や風景をありのままにきりとるという役割は、これを機に絵画ではなく、写真が担うようになってしまったのです。・・・いち早く印象派を学び、イノベーションを行ったウェンデルでしたが、写真技術の革新を契機とするリ・インベンションに翻弄されてしまいました。

リ・インベンションとは

直訳すれば『狙い定めた事物をゼロから最発明する』という意味ですが、それを私は「前衛への挑戦」と意訳します。前衛とは先駆的かつ実験的な創作のことで、・・・「企業家精神」、もしくは挑戦の姿勢のようなものになるのではないかと思います。(5ページ)

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Bridge at Ipswich | Museum of Fine Arts, Boston

画家は絵画を最発明した

印象派は白黒写真では捉えることのできない色と光にフォーカスした。カラー写真の登場によって、ピカソマティスは形や色を破壊し、抽象的な絵画が登場しモダンアートにつながる。彼らは絵画を画家の内面を映し出すものへと作り替え、『絵画をゼロから最発明』していた。

ウェンデルは印象派と遠近法を組み合わせた風景画に取り組んだ。それは小さなイノベーションであって本書でいう再発明ではなかった。だからといってウェンデルの努力に意味が無かったとは言えない。長い歴史で見ると埋没してしまった結果だけが残る。

蛇足

リ・インベンションとは想像できないほど理想的な状態を作ること

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