毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

そうかあの時イチローは恐怖を感じていたんだ~『BRUTUS特別編集 合本・今日の糸井重里』糸井重里氏(2012)

BRUTUS特別編集 合本・今日の糸井重里 (マガジンハウスムック)

2011年4月に刊行したブルータス「今日の糸井重里」のムック化です。この特集は、約2か月、完全ドキュメンタリー形式で糸井重里を密着ルポ。(2012)

 

 

 

 

 野球人生で最も恐怖を感じた打席

(2009年WBCの決勝でセンター前ヒットを打った)あの打席というのは、実は僕の野球人生において最も大きな恐怖を味わった打席だったと思うんです。おそらくこの先にもないでしょう。ツーアウト1,3塁。そこまでずっと打てずに苦しんでいたのに、ここで僕が来るかって。敬遠もあるんじゃないかと思ったんです。バッターボックスが自分の視野に近づいてくるにつれて、頼むから敬遠してくれと思った。

敬遠してくれれば僕のプライドは保たれるし、次のバッターは中島で、彼はそれまでに結果も出していたので、凡退しても責められることはない。僕が三振したら、年間262本安打記録なんて関係なくなってしまう。何をやっても、「あの時打てなかったよね」で片づけられてしまうような打席。過去より、(過去を捨てて)この先に何を作っていくかが大切だと思ってやってきたけれど、あそこではいままでやってきたことを全部消されるな、と矛盾した思いが存在したんですよ。

あれは思い出したくない打席です。・・・あのWBCの後に僕は「おいしいところだけいただきました」みたいなことを言ったんですけど、すべてが打ち消される可能性のある打席だった。(31ページ)

今日の糸井重里

糸井氏とイチローの対談はNHKBSで2011年1月1日に放送されたもの。

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http://www.pideo.net/video/pandora/7bc949383e91f75c/

対談で、イチローは”恐怖”を感じたと告白する。イチローは過去に安住することなく、前に向かっていくことを信条としていた。イチローWBCの打席で、過去に執着する弱い自分に直面する。イチローは今までの野球人生の価値と、1打席の価値が等しいような重大な打席に遭遇した。その時感じたのは全てを失う”恐怖”であった。

全てを一瞬にして失うかもしれない、我々は日常ではめったに味わうことのない経験である。しかし長い人生において、全てを失うかもしれないということに直面することもあるのだ。そしてその時感じるのは恐怖である。イチローは思い出したくない経験を皆に披露することで、我々に重要な二つのことを教えてくれた。

蛇足

恐怖が生じると知っていれば恐怖も管理できる

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