毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

馬車をつないでも鉄道にはならない~『経済発展の理論』シュムペーター(1926)

経済発展の理論―企業者利潤・資本・信用・利子および景気の回転に関する一研究〈上〉 (岩波文庫)

 シュムペーター(1883-1950)はオーストリア出身の経済学者、資本主義経済過程を循環―発展の二段階的に把握し、革新・新結合という経済内部の自発的な発展力を理論化(1926)

 

発展とは何か?

発展とは、経済が自分自身のなかから生み出す経済生活の循環の変化のことであり、外部からの衝撃によって動かされた経済の変化ではなく、「自分自身に委ねられた」経済に起こる変化とのみ理解すべきである。(174ページ)

われわれが取り扱おうとしている変化は、経済体系の内部から生ずるものであり、それはその体系の均衡点を動かすものであって、しかも新しい均衡点は古い均衡点からの美文的な歩みによっては到達しえないようなものである。郵便馬車をいくら連続的に加えても、それによって決して鉄道をうることはできないであろう。(180ページ)

われわれの意味する発展の形態と内容は新結合の遂行という定義によって与えられる。(182ページ)

新結合とは(wiki)

①新しい財貨の生産

②新しい生産方法の導入

③新しい販売先の開拓

④原料あるいは半製品の新しい供給源の獲得

⑤新しい組織の実現(独占の形成やその打破)

新結合は突然現れる

(新結合は)単に旧いものにとって代わるのではなく、一応これと並んで現れるのである。なぜなら旧いものは概して自分自身のなかから新しい大躍進をおこなう力をもたないからである。先にのべた例についていえば、鉄道を建設したものは一般に馬車の持ち主ではなかったのである。(184ページ)

新結合の実践者、アントレプレナー

企業者(Unternehmer、アントレプレナー)と呼ぶものは、新結合の遂行をみずからの機能とし、その遂行に当たって能動的要素となるような経済主体のことである。(199ページ)

新結合の遂行は、これをおこなう人を概念的に純粋に特徴づけるような生涯の職業とはなりえないからである。それはちょうど戦略上の決断とその遂行のようなものであって、しかも「将軍」をして将軍の類型たらしめるものは、まさにこの機能であり、官職上の事務事項を処理することではない。(205ページ)

1926年経済発展の理論が出版

シュンペーターになじみの深かったアメリカ合衆国は、新興の国としてまた旧踏の慣行などの制約から解放された国として、その資本主義経済はまさに活気にみちた新進の興隆期にあった。殆どすべての人々は自由自在に経済の舞台に参入し得たし、またここから退場することもできた。あらゆる種類の経済活動が試みられた。(訳者あとがき、より下巻269ページ)

経済発展の理論

 

シュムペーターは経済発展の原動力は新結合、現在の言葉でいうイノベーションである、と唱えた。新興国として成長著しいアメリカの分析によって理論化した。

シュムペーターイノベーションの例として郵便馬車と鉄道を例に出す。郵便馬車をいくら連結しても鉄道にはならない、そこには蒸気とレールを利用するという新しい輸送手段=生産手段を提供した。郵便馬車と鉄道の間には非連続が存在する。鉄道はイノベーションを象徴していたのである。

イノベーションの担い手であるアントレプレナーの役割は、「将軍のように戦略をたて決断し実行すること」であり、本質は資本を持っていることでも従来の経済循環の中の経験でもないと言う。我々は成功したアントレプレナーに、成功の過程で資本と経験の蓄積が行われるから見誤るのである。アントレプレナーの本質はイノベーションを行う、と決断・実行することである。

90年前の本書は、郵便馬車と鉄道を使ってイノベーションの本質を説明してくれている。

蛇足

アントレプレナーの最大の資質は決断すること

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