毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

傭兵と経済的徴兵制に本質的違いは存在するか?~『傭兵の二千年史』菊池 良生氏(2002)

(講談社現代新書)

菊池氏はオーストリア文学の研究家、ヨーロッパ興亡史の鍵は、傭兵にあった! 古代ギリシャからはじまり、ローマ帝国を経て中世の騎士の時代から王国割拠、近代国家成立まで、時代の大きな転換点では、常に傭兵が大きな役割を果たしてきた。(2002)

 

 

出稼ぎ傭兵がスイス最大の産業

 

スイス誓約同盟の各州は一握りの都市貴族が牛耳っていた。これら門閥州政府は農民たちをひとまとめにして、スイス歩兵を喉から手が出るほど欲しがっているヨーロッパ各国の諸勢力と傭兵契約を結ぶのである。つまりスイス傭兵部隊とは国家管理の傭兵であった。しかも州政庁による強制徴兵あんど必要なかった。働き口のない屈強な若者たちが先を争って傭兵募兵に応じたのである。出稼ぎ傭兵はスイス最大の産業となった。それはまさしく「血の輸出」だった。…なんといっても最大のお得意様はフランスであった。フランスのために(1474年の契約から)3百年間で50万人以上のスイス兵が命を落としたと言われている。(75ページ)

1792年フランス革命の最中、フランス常駐のスイス連隊4万の兵が解雇

フランス革命軍の中から突如として「フランス国民万歳!」と言う声が起きた。…こうしてヨーロッパ史上初の「国民軍」が誕生した。すなわちこのときよりフランスにとって戦争は王家による王朝戦争ではなく、国民戦争となったのである。同時にそれは軍としての傭兵部隊の終焉をも意味していた。(209ページ)

国民国家は傭兵を必要としなくなった

古来、戦争とは忠誠、祖国愛といった観念とは対極に位置していた傭兵たちによって担われていたのである。それがいつかナショナリズムにより途方もない数の人々が祖国のために身を捨てる国民戦争に変質したのである。(5ページ)

少なくともヨーロッパは大多数の人が食うために生きるために、傭兵として戦場に身をさらす必要のない国民国家という組織を作り上げた。(223ページ)

 

経済的徴兵制 (集英社新書)

アメリカでは、貧困層の若者が大学に進学するため、あるいは医療保険を手に入れるためにやむなく軍に志願するケースが多い。2000年代の中頃、アフガニスタンイラクで米兵の戦死者が増大して志願者が減った時には、この傾向はいっそう強まった。このように、貧困層の若者たちが経済的な理由から軍の仕事を選ばざるを得ない状況のことを、アメリカでは「経済的徴兵制」と呼ぶ。(14ページ)

「経済的徴兵制」の何が問題か。答えははっきりしている。国土防衛ではなく、富める者たちの利益のために行われる海外の戦争で、貧しき者たちの命が「消費」される。それは不正義以外の何物でもない。使い捨てにされてよい人間など、この世に存在しない。(252ページ)

傭兵と経済的徴兵制に違いはあるのか?

ヨーロッパ近世以前、スイスは最大の傭兵部隊の供給源であった。彼らはフランス革命と共に姿を消した。国民国家ナショナリズムによって国民軍を徴兵できるようになったのである。

世界で最も富める国アメリカで経済的徴兵という言葉が使われているという。アメリカ国外に派兵するのはナショナリズムに訴えるだけでは十分ではない。そこには経済的メリットを提供することで兵隊を集めている。経済的徴兵と、傭兵、そこには違いはあるのであろうか?傭兵は宗教と結びつく最古の職業の一つであるという。傭兵を必要としないはずの国民国家が経済的徴兵に頼ることは、長い歴史において戦争は金儲けの為に行われてきた本来の姿に戻ろうとしているだけなのかもしれない。

蛇足

 

本書によれば戦国時代の終焉により、日本人傭兵が東南アジアに進出していた。

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