どうしてラーメンをフーフーと息で冷やせるか?宇宙のビックバン再現の秘密~
多田氏は素粒子物理学の研究家、宇宙はどのように誕生し、今の姿になったのか? 140億年後を生きる人類は、加速器という装置を作り出し、宇宙が生まれた瞬間――100兆分の1秒後にまで迫っている。2015)
生まれたての宇宙
宇宙の初期は温度が非常に高い世界です。陽子と電子も、くっついてセット(原子)になっているのではなく、あちこち自由に飛び回っています。温かい部屋のなかの水蒸気のような状態ですね。ですかた宇宙の初期に物質がどういう状態だったかを知りたければ、それと同じくらいの温度で温めてやればいいんです。そうすれば宇宙初期の物質の様子を実際に見ることができます。(69ページ)
温度とは何か?
温度とはエネルギーの密度です。ですから「温める」ということは、エネルギーを高くする、即ち速度を高くする、ということと同じです。そこで粒子を加速させるんです。・・・高エネルギー加速器研究機構とは、粒子を加速させることで、高エネルギー状態を作り出し、その状態を研究するところなのです。(70ページ)
宇宙の年表
宇宙の一番初期が上、下が現在です。時間の流れは対数的になっています。現在は宇宙ができて140億年くらい、秒で言うと10^-17秒後くらいになります。それを今から遡ってみます。つまりどんどん温めていきます。この人類が作り出した最も精密な機械である加速器、先程のLHCで、どれくらいの温度を作り出せるかというと、10^17℃、時間で言うと10^-14秒、100兆分の1秒後という、もうほとんど宇宙ができて間もない、想像もできないくらいの最初の頃になります。(72ページ)
10^-14秒後に起こったこと
・10^-8秒後: クォークが陽子に閉じ込められる
・10^2秒後: (陽子と中性子がくっついて)原子核が形成された=元素合成
・10^13秒後: 電子が原子に閉じ込められて、宇宙の晴れ上がった
物質を細かくしていくと
物質は元素からできている。元素は電子と原子核からできている。原子核は陽子と中性子からできている。陽子と中性子は素粒子からできている。現在の科学は陽子と中性子が同じ12種類の素粒子の組み合わせの違いによってできていることは知っているが、陽子から素粒子だけを取り出すことはできないという。
陽子はマカデミアンナッツチョコレート
多田氏はマカデミアンナッツの部分が素粒子、チョコレートの部分がエネルギーに例える。加速器で10^17℃に加熱させるとチョコレートのエネルギー部分が溶けて、ナッツだけが取り出せるという。この高温状態は粒子を加速させ衝突させることで生まれるがマカデミアンナッツは沢山の残骸になってしまうという。
宇宙のはじまりは熱かった
宇宙のはじまり=ビックバンは高温の高エネルギー状態だった。高エネルギー状態を再現することはビックバンを再現することになる。素粒子と宇宙、巨大なものと、微小なものがつながった瞬間である。
息は熱いか、冷たいか?
我々の吐く息は37℃くらい。寒い時は息を手に吹きかける。そしてラーメンを冷ます時も息を吹きかける。違いは息の(気体としての)密度である。温めるときは口を開けて息をそのまま(の密度で)出す。一方冷ますときは口をすぼめる。口の中で圧縮した息が口から出ると膨張してエネルギー密度が下がる、だから冷たい息になるのである。ビックバン以来宇宙は膨張している。つまりはすぼめた口から出る息と一緒で、温度が低下している。本書では適切な比喩が使われ、「宇宙のはじまり」をイメージさせることに成功している。
蛇足
温度とはエネルギーの密度のこと
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