毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

疑似科学とは愉しむ為のエンターテイメントだということ~『疑似科学入門』池内 了 氏(2008)

疑似科学入門 (岩波新書)

 池内氏は宇宙物理学、占い、超能力、怪しい健康食品など、社会にまかり通る疑似科学などがなぜ無くならないのか?(2008) 

アメリカ最大の疑似科学

 

 

アメリカの特徴の第一は、キリスト教原理主義の勢力が強大で、科学的真理より聖書の記述を優先させる疑似科学が盛んであることだ。その中で進化論がずっと標的になってきた。アメリカの学校教育の歴史で、進化論論争は長く法廷で闘われ、現在でもなおカリキュラムに神による生命創造説を加えるかどうかで論争になっている州もある。最近では、神を名指しせず、「インテリジェント・デザイン(ID)」として創造者による生命の設計が行われたという説が取って代わっている。(15ページ)

 

科学を装う

 

 

科学用語の氾濫がある。言葉を通じて誤魔化すのはすべての商法に共通しているのだが、美辞麗句ではなく難解そうに見える科学的用語が並ぶのだ。それによっていかにも本当らしく思わせる効果があるためだろう。例えば、物理学の用語では、波動、フリーエネルギー、ファジー、ゲルマニウム、磁気効果などがある。化学の用語ではフラボノイド、フリーラジカルポリフェノールアントシアニン活性酸素、ドコサヘキサン酸DHA)、エイコサペンタエン酸(EPA)など多数ある。医学用語ではアドレナリン、セロトニン、右脳左脳、前頭前野などで、最近は脳科学の言葉が多く使われている。なじみ深い用語として、クラスター水、マイナスイオン、アルカリイオン、ホメオパシーなどもある。これら科学用語を使えば、それがなぜ効能があるかよくわからないけれど、なんとなくありがたそうに思える点が重宝される。(49ページ)

 

疑似科学入門

 

本書では疑似科学を①人間の心理(欲望)につけこむこと、②科学的装いをして物質世界のビジネスと結びつくもの、③「複雑系」であり科学では分析の困難なもの、に分類する。米国における進化論の否定、インテリジェント・デザインは①の代表例であり、ビジネスにおける科学用語の氾濫は②に該当する。そして③は地震予報などを例に上げる。

どうして進化論は日本で受け入れられたか?

 

 

その違いの原因は、一神教で特にプロテスタント宗教改革で「聖書に戻れ」と説いた宗派)の強いアメリカと、多神教(あるいは無神論)の日本との差異、とするのが自然だろう。しかし日本において本当に進化論が理解されて受容されてきたかのかどうか疑問ではある。・・・ラマルクの用不要説や後天的形質遺伝説などがいまだに信じられ、生態学においても棲み分け説が長い間日本だけで信じられてきたことを思えば、一面的な理解であったのではないだろうか。(16ページ)

 

疑似科学が生まれる所

 米国で進化論が否定されるのはそれでは困る人達がいる。そして日本では困る人は居なかった。むしろ資本主義を肯定する為に進化論は価値があったのである。専門用語で科学を装うのもそれで利益を得る人達=ビジネスで活用したい者、がいるからだと気づく。著者の指摘の通り、疑似科学は多くの非合理を許容し、人間の考える力を害う恐れがある。

利益を得ることは称賛こそされ否定される必要はない。しかし利益を得る方法にも科学の目的にも社会的整合性があって然るべきである。

蛇足

 疑似科学疑似科学と判って愉しむエンターテイメントである。

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