毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

ダーウィンはマルクスへ手紙を書いていた~『文明の海洋史観』川勝平太氏 (1997)

文明の海洋史観 (中公叢書)

 

川勝氏は日本経済史が専門、農業社会から工業社会への移行という「陸地史観」の常識に挑戦し、海洋アジアを近代の発生源とする「海洋史観」を提唱。(1997)

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1873年10月にダーウィンからマルクスに宛てた書簡(草稿か投函されなかったかは不明)

 

マルクスダーウィン

 

資本論の献辞の相手として当初マルクスは「種の起源」の著者であり進化論の創始者であるチャールズ・ダーウィン(1809~82年)を考えていた。だが、ダーウィンはそれを謝絶したというエピソードがある。このエピソードの真偽はともかく、マルクス資本論ダーウィンの進化論との間には親和性がある。ダーウィンの進化論を基礎にした弱肉強肉の社会進化論(ソシャル・ダーゥイニズムともよばれる)は、マルクスが描いた近代資本主義の競争社会にほかならない。(61ページ)

 

階級闘争と生存競争

 

 

マルクスダーウィンの著書を読んだ当初、自己の社会観の根幹をなす階級闘争と、ダーウィンの自然観の根幹をなす生存競争との間に強い親縁性を見出し、歴史的な階級闘争を自然科学的に基礎づける進化論に雀躍した。しかし、その進化論の基礎はもろい。(82ページ)

 

ダーウィンの進化論のロジック

 

 

ダーウィンマルサスの)社会科学から借用した「生存競争」という概念を用いて、有利な変異をする個体は複雑に変化する生活条件のもとで淘汰され、淘汰された変種が新しい形態をふやしていくという「自然淘汰」を論じた。だが自然淘汰という概念についても同じ(種の起源)の序言で「私は自然淘汰が変化の主要な方途ではあるが唯一のものではないことも、確信しているのである。」と結んだのである。・・・・ダーウィン進化論の理論的根拠は社会科学者マルサスが人間観察から得た生存競争という概念である。なぜ、人間は生存競争をするのか。「人口は幾何級数的に増大するが、食料は算術級数的にしか増大しない」とマルサスは信じた。これが唯一の根拠である。それは論証されていない、マルサスのいわば直観であった。(83ページ)

 

唯物史観

 

 

明治の啓蒙時代には「野蛮→半文明→文明」という発展段階的な世界観、あるいは弱肉強食の社会進化論が風靡した。それは進歩、進化、開化などという意識とともに西欧から入ってきた新しい思想である。発展段階的な世界観として、日本人のあいだにもっとも深く根をおろしたのはマルクス唯物史観であろう。唯物史観とは、社会はアジア的生産様式から古代奴隷制→中世封建制→近代ブルジョア資本主義を経て、社会主義から共産主義へ移行すると説く世界観である。(97ページ)

 

我々は生存競争を受容しているのではないか?

 

人類は生存競争による自然淘汰を未だ観察していない。そして唯物史観社会主義共産主義の有効性については疑問を持っている。それでもなお我々は生存競争による自然淘汰というロジックの影響を免れていない。ビジネスにおいて生存競争という言葉が違和感なく使われている。

ダーウィンマルクス、二人の間では手紙が交換されていたという。て生物学と経済学が互いに影響して史観を形成してきた事を今様ながらに気付かされる。生物が進化をしてきた事は間違いない。しかし人類は生存競争による自然淘汰を未だ観察していない。同様に我々は社会主義共産主義の成功を見てはいない。そして、我々は生存競争という言葉を100%否定できない近代資本主義に住んでいる。

蛇足

 

ビジネスにおいて生存競争が最善の策か?

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